第55話
「一時はどうなるかと思っていました」
三者三様の静かな寝息が聞こえる寝室に、アリスティアラたち神々が姿を現す。
「やはり、この翼族の青年は『特別』なようですね」
男神の言葉に創造神はヨルクを見る。
眠っているヨルクは何かを察したのか、ヒナリとさくらを守るように抱きしめる。
その様子に創造神は「今はさくらを奪ったりはせぬ」と苦笑する。
「この青年は、創造神様の張られた結界を無効化しました。そして『呪い』を的確に見抜いただけではなく、『解除』すらしてみせました。普通の翼族ではないのではありませんか?」
「否。彼は『普通の翼族の青年』だ。ただ『雛』を大切に思うあまり、我らの結界を無効化したり、誰も感じることの出来ぬ僅かな『呪いの陰』を見抜く事が出来ただけだ」
創造神の言葉に、男神が同意するように頷く。
「この者は『セリスロウ国』の書庫で知識を培ってきました。だからこそ『呪いの知識』も持っていたのでしょう」
「『親鳥』が『雛』にだけ発揮出来る『浄化のチカラ』にも気付いていましたね」
「創造神様は、彼が『浄化のチカラ』を知っているとご存知でしたか?」
「我らが授けたのは『呪いの解除』ではなく『呪いの軽減』です」
周りの神々の質問に、創造神は静かに首を横に振る。
「『呪いの重ねがけ』を受け続けて、さくらの心臓は確実に弱まっている。あと3回、否2回『呪い』を受ければ、間違いなくさくらは死んでいただろう」
創造神の言葉に周りは息をのむ。
その事実に気付いていたアリスティアラは辛そうに俯く。
「さくらがなんと言おうと泣き叫ぼうとも、あと1回『呪い』を受けたら、ここでの記憶を封じ『この場』から引き離すつもりではあった」
「それは、あの『閉鎖した世界』に閉じ込めると言うことですか」
「確かに彼処でしたら『呪い』は届きません。しかし・・・それをすれば『呪者』を殺してしまいます。それはあの子が一番『望まない』方法じゃないですか!」
「それでも・・・『呪い』が続く限りここへは戻れませんよね」
「不注意から彼女を『生まれ育った世界』からこの世界へ連れてきてしまった。・・・何人もの生命を犠牲にしてまで。そんな彼女をこんな『呪い』なんかで死なせてはいけない」
「『我らが愛し子』を助けられるなら・・・」
「否。それをすれば『愛し子』のココロが壊れてしまう」
創造神をはじめ、神々がさくらへ向ける『慈愛』はあまりにも深い。
『自己犠牲』すら厭わないくらいに。