第54話
「ジタン」
今から出来るか?
そう聞いたら「すぐ出来ます」と言ってきた。
ジタンはヒナリを起こすか聞いてきたが、わざわざ起こす必要はない。
『呪い』のことをヒナリに教えても悲しませるだけだ。
それに、昨夜あまり寝ていなかったヒナリは今ぐっすり寝ている。
動かす気もなかった。
・・・『試したい』事がある。
それにはヒナリの『協力』も必要だった。
ジタンがヒナリとさくらが眠るベッドの脇に立つ。
手にした淡いピンク色の魔石に魔力を通すと、白い光が室内にあふれ出す。
さくらからあふれた光と同じく柔らかい光だ。
魔石に共鳴するように、さくらの身体が少しずつ光り出す。
それと同時に、さくらにまとわりついている、朧気に見えていた黒いモヤがハッキリと姿を現す。
同時に胸を押さえて苦しみ出すさくら。
ジタンが一瞬焦って魔力を止めるが「続けろ」と声をかけてベッドに座り、胸を押さえているさくらの手にヒナリと自分の手を重ねる。
「もうすぐラクになるからな」
そう言って空いている手でさくらの頭を撫でる。
室内を照らす魔石の光が一気に強くなった。
振り向くと、ドリトス様とセルヴァンが魔石に手を伸ばして魔力を注いでいる。
「さくら。みんなも一緒にいる。もう大丈夫だ」
苦しさからか、さくらの目に浮かんだ涙を拭って、重ねた手に魔力を流す。
オレにつられるように、眠っているヒナリからも魔力がさくらに流される。
青白い光がさくらの全身を巡ったのを視認すると、「さくらから消えろ!」と強く念じる。
同時に青白い光が強くなり、さくらに纏って苦しめていた黒いモヤが四散し消滅していくのを確認した。
「もう、これで大丈夫だ。さくら」
部屋中に広がった青白い光の中で、ヨルクの声だけが聞こえた。
光が収束して見えてきたのは、さくらとヒナリの上に重なるように倒れているヨルクの姿だった。
「ヨルク!しっかりして下さ・・・い?」
ジタンが慌てて抱き起こしたヨルクは、寝息をたてて眠っているだけだった。
「魔力を使い切って疲れたんじゃろう」
「もう少し、魔力の使い方を教えないと。このままでは身を滅ぼすぞ」
「『親鳥』は『雛』を守るためなら何でもする。それこそ命懸けでな」
3人は昨日のヨルクとヒナリの事を思い出す。
火球が迫ってきた時に、さくらを命懸けで守ろうとした時のことを。
「ヨルク。お疲れさまでした」
ジタンの声が聞こえたのか、ヨルクは満足げな表情をしていた。