第53話
ヒナリが目を覚ますと、隣の部屋で寝ていたはずの自分がさくらの横で寝ていた事に驚く。
頭を撫でられて顔を上げると、ヨルクが蕩けそうな表情でみていた。
「・・・ヨルク」
「シィー」
なんて顔してるのよ。と言おうとしたら、唇に人差し指を当てられて止められた。
ヨルクの目線につられて下を見ると、頬をピンク色に染めてスヤスヤと微笑んで眠るさくらが目に入る。
その姿に愛しさがあふれ出して口元が綻ぶ。
「『シアワセ』だろ?」
さくらの頭を撫でているヨルクが、小声で同意を求めてくる。
悔しいけどその通りだから頷く。
それに満足したのか、ヨルクがさくらの頬にキスをする。
くすぐったいのか、ふにゃっと笑うさくらが可愛くて、自分も反対の頬にキスをする。
さらにふにゃっと笑うさくらに、今まで以上に愛しさが湧き上がった。
ヒナリが目覚める前。
ジタンが『呪い除け』を付加された『セイジュのブレスレット』と、さくらから譲られた『乙女の魔石』を持って部屋を訪れた。
ヨルクはちょうど寝室から出てきたところで、そのままジタンの話を聞くことに。
神から『呪いのチカラを弱めるには、寝ている彼女の横で乙女の魔石に魔力を流せ』と教えられたそうだ。
ただ、呪いが弱まっても、落ちている体力や身体の機能はすぐに回復しないらしいが・・・
「それでもさくらは少しずつでも元気になれるんだろ」
苦しむ回数が減るなら良い事じゃないか。
昨夜から何度も寝ながら胸を押さえて苦しむさくらの姿が思い出される。
ジタンの部屋から戻って寝室に入ったときも、胸を押さえて苦しんでいた。
それなのに、真っ先に口にしたのはオレやヒナリのこと。
今までも、ひと言も「苦しい」など泣き言が口から紡がれたことはなかった。




