第44話
「イヤアァァァ!」
さくらの悲鳴が聞こえて、ヨルクが真っ先に寝室へ飛び込んだ。
後を追ってヒナリも飛び込む。
続けてセルヴァンとドリトスも寝室に入る。
彼らの前にいたのは、ベッドを囲むように立っているたくさんの『金色に輝く人形』だった。
「さくら!」
「・・・ヨルク」
ヨルクが駆け寄ると、さくらを覆っていた人形が離れる。
ヨルクが泣きじゃくるさくらを抱きしめて、「もう大丈夫だから」と繰り返す。
「ヒナリ。『神々』だ」
セルヴァンに説明されて、ヒナリは慌てて頭を下げる。
「さくら。少し休みなさい」
男性の声がして、イヤイヤと頭を左右に振るさくらの頭に腕が伸ばされる。
すぐにさくらのチカラが抜けてヨルクに凭れ掛かった。
「さくら?!おい!」
慌てるヨルクに『大丈夫ですから寝かせてあげて下さい』と女性の声がする。
しかし、ヨルクは抱きしめているさくらを離そうとしない。
「ヨルク。さくらを寝かせてあげなさい」
セルヴァンに促されるが、ヨルクにはさくらを離すと二度と戻らないのではないかという、言い知れぬ恐怖と不安が湧いてきていた。
「若く賢き翼族の青年よ。今はさくらを休ませてあげなさい。その上で好きなだけ付き添っていればいい」
この声に聞き覚えがある。
飛空船から攻撃を受けたときに聞こえた『声』だ。
「さくらは大丈夫なんだよな!」
「ヨルク!この方々は神様だよ!」
「そんなもん!オレたちにさくらより大事なもんはない!」
ヨルクが一番強い光に向けて叫ぶ。
ヒナリがヨルクを止めようとするがヨルクは聞かない。
『彼女は疲れているだけだ』
『熱はもう下がってるわ』
そう言われて改めてさくらの額に手を当てる。
確かにあの高かった熱がいくらか下がっていて、呼吸もだいぶ落ち着いてきている。
安心して深く息を吐くヨルク。
ヒナリも横からさくらの頬を撫でている。
「ヨルク。今はさくらを休ませてあげましょう」
ヒナリに促されてさくらを寝かせる。
さくらの左手を自身の右手に乗せると、さくらの手の甲側からヒナリが手を重ねる。
「神よ。先ほどの悲鳴は一体・・・」
ドリトスの言葉で4人の脳裏に飛空船が浮かび上がる。
ヨルクとヒナリの背中が見えて、さくらが笑顔で下へ手を振る姿もハッキリと見えるようになった。
そして飛空船が光りだして、ヒナリがヨルクとさくらに体当たりして攻撃を躱す。
直後に放たれた雷撃。
同時に飛空船に赤い光が集結しだす。
放たれた火球に気付いたさくらが悲鳴をあげる。
・・・・・・さくらが悲鳴をあげたのは、この時の恐怖を思い出したからだろう。
ヨルクとヒナリがさくらを守ろうとした直後に、さくらから『白くて柔らかい光』が放たれる。
光は3人を中心に、守るように覆う。
同時に3人と火球の間に男性2人が立ちふさがり、1人が手を軽くふるう。
すると火球は弾かれたように『元の場所』へと戻っていく。
もう1人が腕を振り上げると、火球が徐々に大きくなっていった。
火球は飛空船を飲み込み墜落させる。
それでも乗員が誰一人死んではいなかったのは、『神の御業』だったからだろう。
・・・ただし全員に天罰が下ったようで、地面でのた打ち回っていた。