第431話
無一文で武器もなく防具もなく。
魔法も封じられた状態で、ヒナルクと憎い女たちがいるジュスタールへ向かった。
憎い女たちを殺し、ヒナルクを手に入れるために。
それを、ハンドくんたちが見逃すはずがない。
彼女たちは『ヒナルクを手に入れて破廉恥な日々』を妄想していて、それが実現すると思い込んでいる。
さくらを前にした彼女たちがどんな手を使ってくるか分からない。
ハンドくんたちはサクッと捕まえて『300階層ダンジョン』のトラップに投げ込んだ。
今回は階段ではなかった。
ボス部屋前の広場で目を覚まし、ボス部屋に向かいボスと戦闘。
しかし、使える魔法はショボく、火球は指の先に赤ん坊の小指の爪ほど小さく灯る程度。
武器は鈍で、指先で軽く突っついただけでポッキリ折れた。
防具は薄っぺらで、小石が当たっただけで穴が空いた。
そのような状態でボスと戦い、ひとり、またひとりと倒れて、全員が遊びに飽きたボスに倒された所で目を覚ます。
そこは『ボス部屋前の広場』で、自分たちはこれからボスに向かっていく。
武器も防具も、いつも使っているもので変わりはない。
魔法もいつもと変わらない。
・・・あれは『ただの夢』だ。
縁起でもない夢を見たものだ。
誰もがそう思い、気分を切り替えてテントから出た。
彼女たちはそれを延々と繰り返す。
ボスが毎回違うために彼女たちは気付いていない。
夢が『ただの夢ではない』ことを。
今の彼女たちも『夢の中』なのだ。
「まったく。さくらが関わるとハンドくんは手加減しないな」
〖 手加減したら私ではないでしょう? 〗
たしかに、さくらを守るためならハンドくんは手加減をしない。
後悔するくらいなら徹底的に潰す。
・・・ハンドくんたちは『飛空船事件』でさくらが苦しんだことを今も許していない。
それを神々も知っているからこそ、ハンドくんの暴走を黙認していた。
〖 どうしますか?
『夢の中』ではなく『現実』で繰り返させますか?
その場合、全員が死んだら時間を巻き戻ることになります。
それとも『これは夢の中だ』と気付かせて、いつまでも続く夢の中で苦しめますか?
私としては、ひと月後に気付かせてあげるつもりですが? 〗
いま、彼女たちの本体は、『カラクリ』の中にいる王都から来た男たちの『カラクリの隣』で眠りについている。
彼女たちが魘されて漏れ出す『うめき』は見事に彼らを恐怖に陥れていた。
〖 一石二鳥です。
有効活用、廃品再利用とも言いますね 〗
「好きにしていい。
ただし・・・」
〖 『さくらには気付かれるな』・・・ですね。
もちろんです。
カワイイさくらにバレて、グレてほしくありません。
・・・グレた姿も見てみたいですけどね。
さくらには、1分1秒でも一瞬でも。
嫌われたくありません 〗
「分かっているならいい」
ハンドくんのことだ。
さくらに気付かれるようなことはないだろう。
・・・神は時として残酷だ。
それを、愛し子に知られたくはなかった。
〖 男も女も、あのまま放って置いたら確実に野垂れ死にするところを助けた。
感謝こそすれ恨まれる覚えはありません 〗
ハンドくんの『自己正当化』に苦笑する。
たしかに『生命を救った』のは事実だ。
だったら、今の状況は『その対価』であり、ダンジョンの瘴気を減らす『人助け』でもある。
〖 大丈夫です。
いずれは解放するのですから。
『ウラシマ効果』は仕方がないですね 〗
さくらの存在が、ハンドくんを暴走させる。
しかし、さくらの存在が、ハンドくんの暴走を食い止めている。
さくらの存在が、神々を動かし・・・
さくらの存在が・・・この世界の均衡を支えている。




