第422話
戦闘を終えて解体を終えると、シーナとルーナが広場全体に浄化魔法を掛けて回った。
いまでは直径100メートルほどの広さなら2人で3回。
計6回で十分浄化出来るようになった。
どんなことでも続ければ『熟練度』が上がって上達することを、ようやく2人も理解したようだ。
地面に直で正座しているジョシュアとジョアンナ。
その前で静かな怒気を放っているスゥ。
さくらはその様子を見守りつつ、アームチェアに座って休憩中。
「浄化終わりました」
〖 ご苦労様でした。
では結界を張って休憩にします 〗
「ご主人さま・・・疲れた?」
「いや。途中で3人が交代してくれたからな」
そう。追加の戦闘は8回。
しかし5回目からスゥたち3人がさくらと交代して戦闘に入っていた。
3人は共闘ということで、ジョシュアたちの解体作業を手伝っていた。
レアの『解体のナイフ』を使っているため、一瞬で解体されていく。
ジョシュアたちはそのナイフを驚いて見ていた。
「話には聞いていたが見たことがなかった」
「普通にエンテュースの武器屋でも売ってたぞ」
「はい。ユリティアの冒険者ギルドでも売っていました」
4回目の戦闘を終えて、ハンドくんがひと刺しで解体していく姿を見て、さらに驚いていた。
4回目に現れたのは大量のハチ。
ただし。一体の大きさがソフトボールと同じだった。
光線銃で撃ち落とす。
光線から逃げられても、ハンドくんたちがハリセン・・・ではなくプラスチック製の『ハエ叩き』で叩き落としていた。
・・・ハエじゃないのに。
『あれは『ハエ叩き』ではありません』
・・・じゃあ、なあに?
『『ヨルク叩き』です』
違う〜!
っていうか、プラスチック製だから痛いってー!
『大丈夫です。
ヨルクを叩く時は、ほとんどはハリセンです。
本当に悪いことをした時に使っているだけです。
繰り返されたら困るので『痛い思い』をしてもらうのですよ』
そっか。
じゃあ、いつもじゃないんだね。
さくらは知らない。
初めて『ヨルク叩き』が登場した『聖なる乙女たちの品評会』以降、臀部を叩く時に使われていることを。
そして・・・『神叩き』も存在することを。
「何故お二人は作戦が守れなかったのですか?」
スゥの責める声に、ジョシュアとジョアンナは正座して俯いている。
言えるはずがない。
『ヒナルクに任せてもロクに戦えないだろう』なんて見下していたなんて・・・
「見下していたんでしょう?
『ご主人様が魔物と戦えるわけがない』って」
シーナの指摘にビクリと身体を震わす2人。
それだけで『シーナの言葉が正しい』と理解したスゥが大きく息を吐いた。
「何故『見たことがない』のに見下していたの?
自惚れ?
ご主人は私たちに守られているだけだって。
そう思っていたの?」
さくらにはすでに休憩してもらっている。
ハンドくんと共に300体以上の魔物を倒して貰ったのだ。
〖 人間は瘴気に弱い 〗
それは以前、師匠に注意されたこと。
そのため結界の中に結界を張ってもらい、休んでもらっているのだ。
その姿はスゥたちには見えない。
スゥが一任されたのだ。
だからこそ『二度と繰り返さない』ように厳しく注意をするのだ。
シーナとルーナの時に、自分以上にご主人と師匠も心を痛めた。
二度と繰り返さない。
その思いは、シーナとルーナも同じだ。
二度目の別荘から帰って来た時に、弱って眠り続けるご主人の姿に師匠の言葉が突き刺さった。
〖 貴女たちが平気でも、ご主人も平気だと思わないように 〗
分かったつもりでいた。
でも、別荘で眠った翌日に目を覚さなかったご主人。
次の日も・・・
そんなに弱っていたなんて気付かなかった。
そして、起きても長くは起きていられなかったご主人。
その姿を見て、私たちは別荘から帰って誓い合った。
『二度とご主人に負担をかけない』
別荘でシーナが暴走した時のこと。
当時のことはよく覚えていないが、ただシーナは『ご主人様に失礼なことをした』と後悔していた。
だから、誓い合った。
『ご主人を守るために言動を改める』
敬う気持ちがあれば、決して見下すことはない。
シーナは、生命をかけてご主人を守るために。
ルーナは、二度とご主人に迷惑をかけないために。
ご主人が出なくてもいいように強くなると。
戻ってから変わってきた。
そして・・・目の前にいるのは、『あの頃』のまま変わらずに生きたシーナとルーナの『数年後』のようだった。




