第412話
〖 おはようございます。さくら。
『楽しい報告』がありますよ 〗
さくらが目を覚ますと、ハンドくんが頭を撫でながら挨拶をする。
「ハンドくん、おはよ〜」
〖 昨日の『悪〜い連中』は、『岩山のダンジョン』に投げ込んできました。
ちゃんと武器を持っていましたから問題はないでしょう 〗
「あの『50階層のダンジョン』のこと?」
〖 はい。あの、通常の武器が効かない岩魔人のダンジョンです。
神に許可を貰い、1階をショートカットして2階に放り込んできました 〗
「あそこは魔法が使えれば大したことはないよね。
魔獣も出るから食べ物に困らないし」
〖 はい。連中は王城の兵士ですからね。
ちゃんと魔法が使えます。
使えていないのは『アタマ』でしょう 〗
「そのまま冒険者になるのかな?」
〖 そうですね。
そのうち、仲間に管理に向かわせます。
あそこは『良質な鉱石や土が取れる』ため、私たちが管理するダンジョンとして神たちに貰いました。
どうせ今まで見つからなかったのですから、これからも『見つけられなくていい』のです。
そして私たちが『有効活用』させて頂きます 〗
「だったら、『ケセラン・パサランの生まれ故郷』も・・・」
〖 ああ。あそこは土の神が『岩山のダンジョン』に移しました。
隠し扉が開きましたからね。
今までと違う瘴気の濃さで、心の美しいケセラン・パサランが生まれるか分からなくなりました。
そのため、我々が管理するダンジョンに移したんですよ 〗
「よかった〜。
ありがとうハンドくん!」
本当に安心した様子のさくらの頭を撫でるハンドくん。
『土の神もたまには良いことをする』と隠れて誉めてもしてみた。
ただし・・・これからも『立ち位置』は変わらないだろう。
『岩山のダンジョン』は冒険者ギルドに教えていないダンジョンだ。
武器は効かないが魔法で倒せる、魔物のレベルも低いダンジョンだ。
スゥだけでなく、魔法が得意ではないルーナやシーナでさえ、レベル1の弱い雷魔法1発で倒せたのだ。
「魔法キラーイ!」
「でもルーナ。
武器が通用しない以上、魔法を使わないと倒せないよ」
「・・・分かってる」
「繰り返し使えば強くなれるよ」
やはり犬種なだけあって、ジッとしているより動いたほうが好きなようだ。
シーナも魔法より武器を好んでいるようだ。
「ルーナ」
「はい。ご主人さま」
さくらに手招きで呼ばれて、並んでいたスゥから離れる。
小声で何か指示を受けたらしいルーナは黙って頷くと、「行ってきます!」と前へ駆け出した。
「え?ルーナ?!」
〖 2人はルーナを信じなさい 〗
ハンドくんに言われて、スゥとシーナは顔を見合わせる。
止まっていた足を動かして行くと、地響きのあと静かになった。
「ご主人さま!」
笑顔で手を振るルーナ。
その後ろにはバラバラになった岩魔人の残骸があった。
「え?ルーナ。
武器で倒したの・・・?」
「うん!ご主人さまに言われたことを試したら倒せたの!」
岩魔人は岩で出来ているタイプの他に、ブロックを積んだタイプもいる。
ここに出る魔物は、ブロックを積んだタイプと岩を積んだタイプ。
「『その『つなぎ目』を狙ってごらん』って。
言われた通りにやってみたら上手くいったの」
〖 ですが、魔法を使いなさい。
弱い魔法で倒せるレベルの魔物相手に魔法を使わないなら・・・ 〗
「オレが倒しちゃ〜う!」
ドッドーンッ!という大音量で、岩魔人に雷魔法を落としまくる。
最初のルーナが倒した岩魔人との戦闘で起きた地響きで、他の場所にいた岩魔人が集団で襲ってきたのだ。
困ったことに、この魔物は『岩やブロックが意識を持った』だけのため『気配察知』が効かないのだ。
原因は、岩やブロックに含まれた鉱石。
それが瘴気を吸って魔物化するのだ。
倒せば鉄や銅が取れる。
土自体も魔物化したため魔力が含まれている。
岩魔人を倒して得られるドロップアイテムは、魔力を流すことで最高級品の製品を作ることが出来る。
さくらの得た分は、ハンドくんがドリトスに送っている。
鉄に魔力を流しながら剣を打てば、それだけで強度も硬度も増すようだ。
そして、武器の強化にも使われる。
ドリトスが魔力を循環させながら打つ武器は、主に魔法剣士が使う『魔法剣』など魔法を纏わせて使う武器として新たに認定された。
中には魔法が苦手なルーナのように『魔法より武器に頼る』者も使うが・・・
戦闘時に武器に魔力を流して使うため、知らないうちに魔法が強くなっていく。
ルーナがそれを知るのはまだまだ先のこと。




