第41話
「さくら!」
「オイ!さくら!しっかりしろ!」
それは突然の出来事だった。
食後もヨルクに抱えてもらって空をとんでいたさくらが、突然意識をなくしたのだ。
大粒の脂汗を流し、体温も一気に上がっている。
タオルを持ってパッと現れたハンドくんが、タオルでさくらの脂汗を押さえて吸い取っていく。
そして別のハンドくんが、下を指差して降りるようにジェスチャーする。
ハンドくんの指示通りに下へ降りると、今度はそのまま廊下へ出るように指を差す。
今この場にドリトスもセルヴァンも不在だ。
彼らはジタンの頼みで、自分たちの国へ通信に行っているからだ。
ヨルクもヒナリも病気とは縁がない。
いや。人族以外は病気に罹りにくいのだ。
だから、拭いても溢れ出す汗と高い熱のさくらに対して、何の病気でどうしたらいいのか分からなかった。
食事の時に「ハンドくんはさくらの世話係」と聞いていた。
今はハンドくんの指示に従った方がいい。
2人は顔を見合わせて頷くと、そのまま扉前で待っているハンドくんのもとへ飛んで行った。
ハンドくんの誘導通りに廊下を進み、突き当たりの部屋の前に辿り着いた。
「ここが『さくらの部屋』?」
誘導してきたハンドくんに確認すると、扉が開けられる。
「失礼します」
恐る恐る室内に入ると、目の前にはソファとテーブルがある『応接間』だった。
「え?」と2人は顔を見合わせる。
『トントントン』という音がしてそちらを向くと、入ってきた扉の左側の壁に扉があって、ハンドくんがそこを叩いていた。
スッと飛んで近寄ると扉が開けられる。
そこは見たことのない物が多く置かれた部屋だった。
何より、部屋の外と空気が違っていた。
さっきまで焦っていた気持ちが、スゥッと落ち着いていった。
そのまま前に見える扉へ進むと、2人はその不思議な部屋に向かい頭を下げた。
次の部屋も、先ほどと同じ空気が漂った寝室だった。
ただ室温がかなり低くなっており、温度に敏感な2人には寒すぎるように感じたが、高熱を出しているさくらにはちょうど良い温度なのかもしれない。
ヨルクは大きなベッドにさくらを寝かせる。
ヒナリはベッド脇のサイドテーブルに置いてあったタオルでさくらの汗を拭うと、ハンドくんに手を掴まれて『汗を押さえて吸い取る』やり方を教えられる。
手を離されて、タオルで汗を押さえて吸い取るとパチパチと拍手された。
ヨルクは何も出来ず、チカラなくダラリとなっているさくらの手をただ握りしめていた。




