第409話
目を覚ますと周りが暗くなっていて、慌てて飛び起きた。
ちょっと疲れたから少し横になったつもりだったのだ。
「あ。スゥ、起きた?」
「シーナ?」
「まだルーナは寝てるから静かにね」
そう言われると、周りの暗闇が一瞬で晴れた。
「え?・・・ああ。ご主人の魔法生物の」
「そう。『まっくろくろすけ』さんたち。
まだ明るい時間だから、2人の周りだけ暗くしてくれたの」
スゥの隣のベッドには、たくさんのまっくろくろすけが集まってドームのように覆っていた。
ここは冒険者ギルドの最上階の部屋。
ご主人が借りた部屋の『従者部屋』。
「スゥ。お腹空いているでしょ?」
シーナに手招きされて、テーブルに近付くとアイテムボックスからお好み焼きが出て来た。
「シーナ。屋台に行って来た?」
「ううん。これはご主人様が買って来てくれたの。
あまり治安は良くないみたい。
ご主人様も引ったくりや万引きを見て来たって」
「じゃあ、私たちは出ない方がいいね」
獣人に対して差別意識を持っている人たちは多い。
賤民意識のない人の方が少ないのだ。
「ご主人様の話では『そうした方がいい』と思っているみたい。
でもあと数日で変わるみたい」
「変わるんですか?」
「うん。警備隊の話では、王都から人が来て取り締まりが厳しくなるそうよ」
「・・・そういえば、冒険者ギルドだけでなく、宿屋の件もあったね」
「それに今日、横領が発覚したから。
それで取り締まりが行われるみたい。
私たちは獣人だからね。
出発するまで、ここで大人しくしてた方がいいかも・・・」
〖 なんていうと、ご主人にぶっ飛ばされますよ 〗
「あ、師匠」
「なぜですか?
私たちは獣人です。
それだけで十分、差別されます」
それにご主人様も『出ない方がいい』と・・・
〖 ご主人は『取り締まりが始まるまで』出ない方がいいと言ってるだけです。
いまはこの町が正しく機能していないのは、城門に門兵や門番がいなかった時点で分かっていたはずでしょう?
それに、このまま『犯罪の蔓延した町』にしないため、町の人たちは頑張っているのです。
彼らの邪魔をしないように。
ついでに身体を休めるために『出ない方がいい』と言っているのです 〗
師匠の言葉に2人は顔を見合わせる。
ルーナを始めとして疲れている自分たちも外に出て、治安の悪い町を散策してトラブルに巻き込まれるか。
回復してから、取り締まり後の治安の回復した町を散策するか。
「師匠。私たちは取り締まりが済んでから出かけようと思います。
ですが食料を買いに」
「あ、まって。
食料というか食材なら、ご主人様が色々買って来てくれたわ。
アイテムボックスにあるの」
〖 入らなかったものは私のアイテムボックスに入れてあります。
シーナのアイテムボックスに入れられるだけ入っていますが、スゥにも渡しておきましょう。
追加があれば、その都度言ってください 〗
「はい。ありがとうございます」
町の治安の悪さは、宿がないため路上生活のように生活しているからだろう。
さらに、収監出来る檻が足りない。
そのため、軽微な罪で取り締まっていられないのだ。
それをいいことに罪を重ねている者たちは、5日後に到着した警備隊本部の取り締まりで収監馬車に乗せられて、大きめの町で罰を受けることとなった。




