第4話
一通り説明が終わると、アリスティアラは真顔になった。
「一つだけ。お願いしたいことがあります」
私の肉体を若返らせたい。と言うのだ。
元の世界に適応した私の体細胞を、アリステイドの環境に合わせるためにどうしても必要なことらしい。
アリステイドの環境でも生活出来る身体を持っていることが乙女に選ばれる一番の条件だが、私はイレギュラー。
このままアリステイドに入れば、数日で死を迎えるらしい。
それは全力でお断りします。
私がマンションの最上階ごと飛ばされたのも、それが一番の理由らしい。
そしてこのマンションへ自由に行き来が出来るようにしたのも、何時でも戻って休めるようにという配慮から。
このマンションは、元の世界と唯一繋がっている。
アリステイドの空気では、私は体調を崩しやすい。
もちろん『その場にいるだけ』で周りの空気を浄化するが、それですら身体に負担がかかる。
「完全に身体が馴染むまでは、無理をしないでここへ戻って来て頂きたいのです」
身体が馴染んでも無理をしてほしくありませんが・・・
そう言われたが、私自身も無理して寝込みたくありません。
用がなければ、ここで引きこもっていたい位です。
でもこの先何十年もダラダラ生きていくよりは、『異世界観光』を楽しむのも良いだろう。
飽きたら部屋に引きこもって、趣味のジグソーパズルを作っていればいい。
今まで仕事が忙しくて作る時間も出来なかったが、これからは時間を気にせずに作れるんだ。
ふと思い出してメニュー画面を確認する。
『ステータス』画面をタップすると、『名前』や『職業』の他に『HP』『MP』『レベル』『スキル』など、ゲームでお馴染みの単語がズラズラと出てきた。
「この世界はゲームですかねぇ?」
そう呟いたら目線を逸らされたよ。
無言で見ていたら『蛇に睨まれた蛙』のように固まるし。
「貴女をお送りする大陸は、イザコザはありますが比較的平和なので安心して下さい」
「スキルって~。(攻撃)魔法とかー。(回復)魔法とかー。(補助)魔法とかー」
指を折りながら数えだしたら
「魔法の使い方は後日お教えします。今は新しい世界に身体を慣らす事から始めますから。今日はこの部屋に寝具を用意しますので、ここでお休み下さい」
アリスティアラのその言葉を聞くと同時に、私は深い眠りに落ちた。
私に愚痴や反論の余地はないのだろうか。
「見事にな~んもないねぇ」
見渡す限り荒野のド真ん中。
地平線に凸凹と見えるのは山。
ここは上から見ると、クレーターみたいになっているらしい。
なんでこんな所に居るのかというと・・・
「この島はアリステイドの端にあります」
そのため瘴気が一番弱いらしく、今の私が無理せずに身体を慣らす事が出来るそうだ。
そして島の周囲には『結界』を張ってあるので、魔法でドッカンバッタン暴れても騒いでも、周りに迷惑はかからないらしい。
さすが長い間覗きをしてただけあって、私の性格が分かってらっしゃる。
「誤解を与えるような言い方をしないで下さい」
本当のことでしょ?
それとも『ストーカー』って言った方が良かった?
「・・・・・・・・。まずメニューの使い方から」
あ!話、逸らした。
「はーなし~、そらさなーいで~」って歌ったら、「そこは『瞳』だったと思いますが?」とツッコミを入れられた。
2番は『話』なんだよ〜。
っていうか、なぜこの曲を知っている?
「ひーとみ〜、そらさなーいで〜」
目をそらしたから、折角だから1番を歌ってあげたら顔が真っ赤になってたよ。
「・・・では話を戻します。メニュー画面を表示させたい時は、思い浮かべるだけで開くことが出来ます」
フムフム 。では『開け、メニュー!』。
アラビアンナイトの呪文をモジって思い浮かべたら、先日と同じ様にポンとメニュー画面が現れた。
この前見た時よりメニューが増えてる!?
「無事に開きましたね。この画面は他の方には見えていません」
だから!メニューが増えてるって!
「メニュー画面は指で操作出来ますが、メニューを思い浮かべるだけで開きます」
あ。スルーしたよ、このねーちゃん。
取り敢えず『ステータス』と心の中で呟いたら、ゲームで見かけるステータス画面が表示された。
私は『レベル1』で、『体力』や『魔力』『攻撃力』に『防御力』『精神力』などの表示はすべて10しかなかった。
名前の欄は空白になっている。
そして私の年齢は『18歳』だった。
ずいぶんと若返ったもんだ。
「この画面を閉じる時は?」
『終わり』や『終了』などと思うだけで、メニュー画面に戻ることが出来るらしい。
試しに『閉まれ、ゴマ!』と思ったら、ステータス画面からメニュー画面に切り替わった。
「では次に移っても良いですか?」と言われて思わず「ダメ」と言ってしまった。
なんか気持ち悪い。
そう訴えると、アリスティアラは私をジッと見つめて、「だいぶ澱が溜まっていますね」と言った。
澱が溜まると、こんな風になるのか・・・
ここで急遽、澱を魔石に変換する方法を教えてもらう事になった。
地面に直接座り、胡座をかいて目を閉じる。
精神統一をするように、両手を合わせて気を込めると掌が熱くなる。
するとすぐに何か硬い物が手の中に現れた。
目を開けて手を開くと、拳大のピンク色をした正二十面体の水晶がコロンと出てきた。
組んだ足の中にも、同じ水晶がコロンコロンと落ちている。
「おおー!これが『乙女の魔石』かー!」
キレイじゃん!と喜んでいたら、『キレイなお顔の女神様』が「ハァァァァァァァ」って大きなため息を吐いてへたり込んだ。
どうやら歴代の『聖なる乙女』たちは、『魔石の精製』は一度に一つしか出来なかったらしい。
私が一度に作り出した魔石は5個。
それも『最上級』だそうで、1個800万円はイケるようだ。
うん。なんかゴメン。
何か気になって、再び『魔石精製』をしてみる。
さっきは手の感触が気になったから『途中で止めた』んだ。
今度は手の感触を気にせず足に当たる感触も気にせず、『気持ち悪いのが無くなる』まで精製をし続けてみる事にした。
「こんなもんかなー」
気持ち悪いのが消えて、スッキリした気分で目を開けた。
「なんじゃこりゃあ!」
古いドラマの名台詞が口から飛び出したが、決して私のせいではないだろう。
周囲に広がっていたのは魔石の海!海!海!!
その中で埋もれるように座っている女神様の笑顔は引きつっていた。
大量の魔石を、一つずつアイテムボックスに入れるのが面倒くさい。
そう思っていたら、アイテムボックスの設定で『自動収納』というのがあった。
魔物を倒した時に出る『ドロップアイテム』を、自動でアイテムボックスに収納してくれるらしい。
今みたいに魔石を精製した時も自動で魔石をアイテムボックスに収納するので、人前で手を合わせて精製しても気付かれないようだ。
『有効化』に設定して、魔石を一つ手にした状態でアイテムボックス化させたウエストポーチに触れる。
『乙女の魔石をすべてアイテムボックスに入れますか?』と表示が現れたので、『はーい』と心の中で返事をする。
瞬時に、魔石がすべてアイテムボックスに収納された。
それと同時に、メニュー画面の下に『乙女の魔石23,352個を収納しました』と表示が出た。
そんなにあったんかい!(笑)
アイテムボックスを開くと『貴重品(1)』となっていた。
開いてみると『乙女の魔石 23,352個』の表示。
ふーん。私が作る魔石は『貴重品』なんだ。
あまりにも多くて自覚ないけど。