第391話
「おい・・・セルヴァン。これはどういうことだ?」
呆然とするヒナリの横で、ヨルクは何とか思いを声に出した。
恐竜島の中央にある『あそび場所』では、スゥたちが恐竜たちと模擬戦中なのだ。
スゥたちが装備しているのは木剣のため、恐竜たちには当たっても痛みはない。
そして恐竜たちの武器は尻尾だ。
それを器用に振ってスゥやシーナと『チャンバラ』をしている。
ドドドドド・・・と、小型の恐竜たちと『かけっこ』をしているルーナ。
「遊んでいる・・・というより、遊ばれている?」
ヒナリが言う通り、どの子たちも楽しそうに小さな獣人たちの相手をしている。
そしてさくらは・・・
「きゃあ〜!」
尻尾で空に飛ばしてもらい、翼竜にキャッチしてもらっていた。
「セルヴァン様。さくらのアレは大丈夫なのでしょうか」
「ヒナリ。さくらの肩にハンドくんがいる」
「ああ。危なければ、ハンドくんがフォローしている」
今のハンドくんは珍しく『さくらと楽しく遊んでいる』ようだ。
・・・いや。最初の頃はさくらと一緒に遊んでいたのだろう。
今でも二人のやりとりは、まるで『兄妹』のようだ。
翼竜に空中で放り出されると、真っ黒な『なにか』がさくらを取り囲んだ。
「な、んだ?アレ」
「さくらの魔法生物、らしい。『ケセラン・パサラン』の亜種だそうだ。『まっくろくろすけ』という名前らしい」
「あ?さくらの部屋に初めて入った時にみたアニメに出てきたぞ」
「俺はみていないが・・・それに似ているようだな」
「そうね。たしかに似ているわ。そして、さくらは楽しそうだわ」
ヒナリは微笑みながら、さくらを見ている。
間もなく別れの時が来るだろう。
また何日も何ヶ月も会えなくなる。
しかし、さくらは楽しそうに笑顔で過ごしているのだ。
だから、信じてさくらを送り出そう。
「・・・ああ。そうだな。楽しそうだ」
行ってこいさくら。
オレたちも知らない、見たことのない世界を、自分の目で見てこい。
セルヴァンはヨルクを眩しそうに見ていた。
最初は『信じる』ことがわからなかったヨルクは、さくらを通して信じることの意味を知った。
今は『さくらの親』としての自覚を持っている。
ヒナリと共に『さくらを守る側』に胸を張って立っている。
初めは二人を快く思わない者が多かった。
若い二人を蹴落とし、自分たちがさくらのそばに侍ろうと考えたからだ。
それは、二人が『次期翼族の族長』という立場だと知れ渡ると声は小さくなった。
そしていま、『御料牧場』の設立にジタンと共に自分たちの研究の成果を如何なく発揮している。
その知識から、徐々に二人の存在が認められている、とジタンから聞いている。
それも『さくら』という存在がいるからだ。




