第39話
「ん?さくら?」
どうした?と聞きながら、芝生の上で目を開けたまま動かないさくらに近付く。
セルヴァンの声で目を覚ましたのか、両隣で寝てたヒナリとヨルクが飛び起きてさくらを見る。
「さくら?どうしたの?」
「どうした?具合でも悪いんか?」
ヨルクはさくらの額に手を乗せるが、特に熱いとは思わない。
虚ろな目のまま、さくらが嬉しそうに両手を空へと伸ばす。
「え?・・・空が!」
ヒナリが振り仰いだ空は、風が雲を流して薄日が幾筋もさしていた。
ヒナリの言葉で全員が空を見上げ、久しぶりの陽の光に神々しさを感じる。
「・・・『天使のはしご』」
「さくら?」
ヒナリが目をさくらに戻した時には、再び目を閉じて眠っていた。
・・・そして目を覚ましたさくらは、何も覚えていなかった。
「さくら。具合は?」
「いっぱい寝たから元気だよ」
ヒナリの心配をよそに、嬉しそうに空へ手を伸ばすさくら。
先ほどの『虚ろな目』ではない。
「だから身を乗り出すな!落ちるだろーが!」
ヨルクは文句を言いながらでも、さくらを抱えてとぶことに慣れた様子で、余裕な表情を見せている。
さくらの目には、『小さな光の妖精たち』が見えているらしい。
『彼ら』に手を伸ばしたり、楽しそうに遊んでいるのだ。
・・・周りの者には、さくらの周りに飛び交う光にしか見えない。
さくらが初めて王城に来た日。
あの時に降臨された女神も、あの場にいた誰もが『光の人形』にしか見えなかった。
しかし、さくらには『人の姿』として見えていると言っていた。
「やはり、さくらは『女神に愛されし娘』なのじゃな」
セルヴァン同様、いすに腰掛けて飛び回って遊んでいるさくらたちを見守っていたドリトスが呟く。
ジタンはこの場にいない。
雲が切れて、久しぶりにみる陽射しに驚いていたが、すぐにガラスにかけられている『陽光熱除け』の魔法を『有効』に切り替える。
ガラスに覆われた屋上庭園内が、暑くならないようにするためだ。
続けて、王城内全体に掛けられている『温度安定』の魔法も『有効』にする。
そして神への感謝と改めて謝罪を伝えるため、神殿へ向かった。




