第364話
「お騒がせして申し訳ございませんでした」
頭を下げるシーナたち。
ここは1階のリビング。
「仕方がないわ。私たちには『いつものこと』だもの」
「いつも?」
「ええ。『寝るときは、さくらを1人にしない』のが私たちの間では『きまりごと』なのよ」
「『神の館』でも一緒に寝てましたね」
「まあ、あの頃はさくらも『病気』で寝たり起きたりしてたからな。
寝る時はオレとヒナリが一緒だったけど、起きてる時はセルヴァンかドリトス様が付きっきりだったからな」
「ヒナリさんはさくら様の姿が見えなくなっただけで『半狂乱』になってましたから」
「・・・・・・あの時は悪かったわよ。
でも『弱っていくさくら』を見てたんだもの。
目を離したら、そのままいなくなるんじゃないかって心配だったのよ」
「そんな『親ごころ』を知らずに、さくらは『ちょっと遊びに行ってくる』って飛び出したけどな」
「それも明け方にコッソリじゃ」
ドリトスは面白そうに笑っている。
「あの子ったら、最初は『家出』を計画してたのよ」
「家出・・・ですか!?」
シーナが驚いて声を上げる。
ルーナもスゥも目を丸くして顔を見合わせている。
「そうです。父たちがさくら様に対して働いた無礼の数々。
その謝罪も含めて、さくら様のお過ごしになられている部屋のある王宮を、そのまま『神の館』といたしました。
さくら様に『帰る家』が出来、帰りを待つ『家族』も出来ました。
そのため『家出』から『旅行』に切り替えて下さったのです」
「王宮・・・?『王様のお城?』」
ルーナが首を傾げる。
「皆さまのところはどうか分かりませんが・・・
私の国では王や王の家族が住むのが『王宮』。
そして、政に携わる者や文官・武官たちの住む宿舎。
宿舎は衛士、近衛兵たちと官たちの宿舎は別棟ですし、侍女や料理人たちの宿舎も各々あります。
そして、賓客・・・国のお客様が宿泊される『迎賓館』。
庭園や神殿などもあります。
それを城壁でぐるりと囲んでいますが、その城壁の中すべてをまとめて『王城』と言います」
〖 貴女たちの大陸では、1つのお城になっています。
その城の中に『国王の住処』も宿舎もあります。
魔獣の襲撃から守るため、頑丈に出来ています 〗
「そんなの、ハンドくんの『ハリセン攻撃』なら1分もかからないで全壊じゃないか?」
〖 いいえ。違います 〗
「・・・ハンドくんでも時間がかかるのか?」
〖 いえ。一撃で崩壊確実です 〗
「・・・そっちかよ」
「さすがハンドくんじゃ」
「ドリトス様。
ハンドくんのハリセンはドリトス様が造られたのですよね?
その・・・『安全』の方は?」
「『人が死なない』という制限付きじゃ」
〖 リミッターを解除してもらいたいのですが。
せめて『ヨルク限定』で 〗
「オイ!」
「残念じゃが。
それで人が死ねば、さくらが悲しむじゃろう?」
〖 さくらを悲しませるのは本意ではありません 〗
「ハンドくん。大丈夫ですよ。
『紙のハリセン』には制限がありませんから」
「ジタン。テメェ・・・
最近ハリセン攻撃を受けないからって」
「誰かさんと違って、ちゃんと反省して行動を改めていますから」
〖 そうそう。
『最凶最悪』とは誰のことでしょう? 〗
「へ?」
〖 物覚えが悪いようですね〜 。
『最恐最悪』とも『最狂最悪』とも。
私のカワイイさくらに、丁寧に教えてくれたようですねぇ 〗
わざわざ、ひとつずつ紙に書いた『誤字熟語』をヨルクに掲げて見せるハンドくん。
その紙にヨルクは見覚えがあった。
ヨルクがさくらに書いて見せたものだからだ。
「あっ・・・何でそれを!!!」
〖 やはり物覚えが悪いようですね〜。
私は『さくらの考え』が読めるんですよ?
つまり『さ・い・きょ・う・さ・い・あ・く』と、口に出せば分からない言葉も、頭に浮かべる時は漢字です。
私のさくらはダレかさんと違って『素直で良い子』ですからね。
『誰が教えたのか』と聞けば話してくれますよ 〗
「・・・やはりヨルクは懲りませんね」
「オレが教えたのは1回だけだって!」
「『私のカワイイ娘がマネするから変なこと言わないで』って言ったわよね?」
「さくらは『オレの娘』でもあるって」
「バカな父親はいらんじゃろう?」
「だから待てって」
慌てるヨルクを見て大きくため息を吐くヒナリ。
「いいわ。あとでセルヴァン様に報告するから」
「だから、何でセルヴァンに言いつけるんだよ」
「いいや。必要ないぞ。聞いていたからな」
声の主は、左腕にまだ眠そうに目を擦るさくらを抱えて降りてきた。
「少しは眠れたかね?」
「うん」
1階に降りると床に下ろしてもらったさくらは、そのままドリトスに駆け寄り背後から『おんぶ』のように首に抱きつく。
そんなさくらの頭を優しく撫でるドリトス。
そんな『ほのぼの』している向かい側では、セルヴァンのゲンコツを落とされてテーブルに突っ伏すヨルクの姿。
〖 さくら。ヨルクをどう『始末』しましょう? 〗
「ん〜?」
何か考え始めたさくらの考えを読んだハンドくんが〖 それはいい考えですね 〗というと、ヨルクを砂浜へ連れ出し、砂の中へ頭だけ残して埋められた。
その身体の上にさらに砂を積まれ、砂の重さで身動きがとれないヨルク。
砂は色々と形を作られていく。
「だーせーえー!」
〖 さくらを楽しませるのも『父親の役目』です。
それとも、さくらに『あのこと』も『このこと』も、ばらしましょうか? 〗
ハンドくんは具体的なことを言わないが、『心当たり』が多すぎるヨルクは『ヤバい』と表情を固くした。
完成すると、ハンドくんは上空からタブレットで写真を撮る。
「ハンドく〜ん。出来た〜?」
〖 はい。いかがでしょう? 〗
別荘から駆けて来たさくらを空中に浮かべて上空から見せる。
砂で作られたのは、『筋肉ムキムキでポージング』の肉体。
大喜びして笑い転げるさくらのために、ハンドくんたちは様々なポージングに作り替える。
もちろん、完成させる度に撮影を忘れないハンドくん。
撮影の際に、透明になったハンドくんたちに、頭を右に左にと向けられている。
そのうち、『貝殻水着の女性』やさくらの世界の犬の姿などにも作り替える。
一番さくらが笑ったのは、有名な絵画『ヴィーナスの誕生』だった。




