第36話
「これは一体?」
ジタンが屋上庭園に入ると、芝生の上で眠るさくらを真ん中に、翼族2人も一緒になって気持ちよさそうに眠っている。
ヨルクはさくらに腕まくらをして、2人の翼がさくらを覆って天然の羽毛布団になっている。
「さっきまで、3人でとんで遊んどったんじゃよ」
ドリトスに説明されて、ジタンは大きくため息を吐いた。
さくらたちを気にはしていたが、父が国王という職責を全う出来ない今、自分は『国王代理』として各所へ対応しなくてはならなかった。
やっと時間を作って屋上庭園へ来てみれば・・・
「先程、久しぶりにさくら様の笑顔を見ました。・・・お元気になられて、本当に良かったです」
此処へ来た時は疲れた表情だったが、今は安心したように笑顔を見せるジタン。
本来なら、ドリトスとセルヴァンも『エルハイゼン国駐在の外交官』として、ジタンと共に『飛空船発着場』で出迎える予定だった。
しかし、それでは何時間もさくらが『ひとり』になってしまう。
せっかくベッドから離れることが出来るようになったのに・・・
そのため、ジタンから「外交官をお迎えするのは『エルハイゼン国』の仕事です。お二人は、さくら様を屋上庭園にお連れして飛空船をお見せして頂けますか?」と提案された。
2人はすぐに承諾したのだった。
「ジタン。コイツらが寝ている間に」
「はい。それでは奥のテーブルで」
セルヴァンに促されて、芝生から一番離れたウッドテーブルに移動する。
寝ているとはいえ、3人には聞かせたくない話をするのだから。
「コーティリーン国の飛空船に乗っていた者はすべて、『見えない焔』の天罰を受けています」
乗員全員を『保護』するために、神官を通して神々には一時的に天罰を止めてもらった。
そして神殿の地下へ『保護』するまでの間に、色々と聞き出すことが出来た。
今回狙われたのは、さくら様ではなく翼族の2人だった。
エルフ族は翼族を初めは羨んでいた。
その背にもつ翼を。
風を纏い自由に飛び回る姿を。
しかしそれは妬みや嫉みとなり、憎しみへと変化させた。
翼の代わりに『飛空船』を開発したが、翼族のように『自由に空をとぶ』事は出来なかった。
そして『目障りなら消してしまえばいい』と思うようになった。
思ったからと言って、それを『実行』するなど到底有り得なかった。




