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第356話


ダンジョンに入ってから、ずっと怖かった。

たくさんの魔物に襲われた。

どんなに切っても切っても倒せない魔物。

・・・ちがう。

確実に倒してた。

それなのに、次から次に溢れ出て来る魔物の群れ。

シーナとスゥと一緒に、ヘトヘトになりながら、それでも倒し続けた。



〖 遅い!シーナ!右から魔獣が来ているのが気配で分かりませんか! 〗


「すみません!」


師匠がシーナを怒っている。

その声に、俯いていた顔を上げた。

真っ暗だった周りが、明るく・・・でも、あの時の『私たち』の姿が目の前に現れた。

慌てて槍を魔物に向けたシーナに、飛び掛かったウルフの眉間を光線が貫いた。


「シーナ。反応が遅い。あの状態から槍を構えていては、魔獣のツメで()られてる」


「はい!すみません!」


ご主人さまの静かな声が、魔獣の溢れるこの場でも聞こえていた。



「ハンドくん。出るよ」


〖 はい。シーナたちは下がっていなさい 〗


「まだ戦えます!」


〖 足手まといです 〗


師匠の冷たい言葉と共に、私たちは安全な背後へと投げ出された。

倒れたままの私たちは、荒い呼吸を繰り返している。

そう。疲れて動けなかった。

だからご主人さまと師匠の戦いを、私は見ていなかった。


武器を構えたご主人さまと師匠の2人は、目の前に溢れていた100体を超す魔獣たちを圧倒的な強さで倒していった。

ご主人さまも師匠も、旅の間に何度も『打ち合い』をしていた。

あの圧倒的な強さは、その鍛錬をしていたからなんだ。



魔獣を倒し終わったご主人さまと師匠は、息が上がることもなく楽しそうに会話をしている。

そんなご主人様にシーナが声を掛けた。

私たちは次に何をすればいいのか分からなかった。


〖 何ボサッとしているのです?早く魔獣を解体しなさい 〗


師匠に叱られて、私たちは慌てて近くの魔獣から解体を始めたんだっけ。

ぎこちなく、1体の魔物を解体している『私たち』。

シーナと本を読んで、師匠たちに説明してもらったけど、初めての体験で、すべての魔物の解体が終わるまで3時間もかかってしまった。

気付くと、ご主人さまがいた周囲の魔獣はいなくなっていた。

ご主人さまが解体したのだろう。

だから3時間で終わったんだ。

そうじゃなければ、あのペースではもっと時間がかかっていた。

そしてご主人さまは、結界の中に入っているため姿が見えなくなっていた。

ご主人さまが解体をしたのは『自分の分』だけ。

それも今ならわかる。

魔物を倒した経験値と違い、解体で得た経験値は、解体した本人が貰える。

だから、私たちの経験になるように師匠たちの分はワザと残してくれたんだ。

・・・あの時、私はバカだから『ご主人さまだけ休んでいてズルイ』って思ったんだ。



〖 貴女たちは、なぜ、戦いの最中に『気配察知』を怠ったのです?

さらに『危険察知』まで怠るとは!

それもペース配分を怠り、5分でスタミナ切れとは何ごとです!

ご主人様を守る『従者』がご主人様に守られてどうするのですか! 〗


師匠の説教に、私たちは正座して項垂れて聞いていた。


「ハンドくん。お説教はそこまでにして、先に進も?」


ご主人さまが師匠の説教を止めてくれた。

シーナは謝罪している。


「シーナ。『誰かを守りたい』なら、まずは『自分を大切』にしなさい。

その時は自分を犠牲にして助けられても、その後で『守りたい相手』が別の何かに襲われて死んでしまうことだってあるんだからね」


私たちはバラバラに戦わず、一緒に倒すことで確実に倒せるようになった。

繰り返してきたからか、私たちも少しはコツを掴んで早く解体できるようになっていった。




「ねえ、ハンドくん。今日の3人の戦い方、どうだった?」


ご主人さまの声が聞こえた。

そちらへ顔を向けると、周りの風景が変わっていた。

たぶん、ここは宿だ。

そこで、ご主人さまと師匠が話をしていた。



〖 まだまだですね。

特にボス戦はなっていません 〗


「そうだね。

ルーナはボスの大きさに驚いて怯えてたし、シーナもそんなルーナを庇って無茶するし」


ご主人さまの言葉通りだ。

私はその時すでに、魔物を前にすると動けなくなっていた。

スゥが先制攻撃をして、それに続いて何とか動けていただけだった。

でも、ボスを前にして足が動かなかった。


また周りが変わり、初めてのボス戦の時に戻っていた。


敵にしてみれば、私が一番『狙いやすい』相手だったのだろう。

私は集中的に攻撃を受けた。

それを、シーナが庇うために私の前に立っていた。

必然的に、ボスを倒す役目はスゥだけになった。

ご主人さまは、私たちの戦いを壁にもたれて黙ってみていた。

魔物はご主人さまを襲わない。

その理由が今なら分かった。

『威圧』を放っているからだ。

魔物は『強い相手』には自ら襲いかからない。

ご主人さまも師匠も強いから、魔物はご主人さまを襲わないんだ。



スゥはボスを倒してすぐに私に駆け寄ってきた。

「大丈夫?ケガはしてない?」って。

傷だらけなのはスゥの方だったのに。

なのに・・・あの時の私は、そんなことも気付かなかった。


「スゥ。ごめんなさい。・・・そして心配してくれてありがとう」


言えなかった謝罪とお礼を、『過去のスゥ』に繰り返す。

届くはずがないのに。

それでも『届けばいい』と願いながら。






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