第35話
「ところで『さくらの足』は?」
「いえ。足だけではなく『身体も』です」
「・・・そうか」
ドリトスとセルヴァンは、楽しそうなさくらたちを目で追いながら声を低くする。
セルヴァンの言うとおり、さくらの両足はチカラなく、身体もヨルクに支えられている状態だ。
「ヨルクはさくらの身体の状態に気付いているようです」
「さくらに負担を掛けないように注意しておるな。・・・当の本人はまったく気にしておらぬが」
「・・・逆にヨルクたちをからかっているようですね」
さくらは何かを見つける度に楽しそうに身体を乗り出し、その度にヨルクやヒナリが慌てて身体を支えている。
さくらは『もし落ちてもハンドくんたちが助けてくれる』って安心しているのだろう。
もちろん『いざという時』のために、下で見守っている2人も十分に助けられる状態で構えていた。
「ン・・・むぅ・・・」
眠気を払うように目を擦るさくら。
それに気付いたドリトスに手招きされたヨルクとヒナリは、大人しく芝生に降りる。
「うー。まだあそぶぅ・・・」
「無理すんなって」
ヨルクがさくらを芝生に座らせる。
さくらの背中に回り、さり気なく身体が倒れないように支えている。
「少し休んだら、また一緒にとびましょ?」
「今はおやすみ。さくら」
近付いたドリトスに頭を撫でられていると、さくらの目は何の抵抗もなく閉じられていく。
そしてそのままヨルクに凭れかかった時には、寝息が聞こえてきた。
ベッドから離れて1時間は経っている。
何時もなら、すでに一度眠っている頃だ。
・・・それだけ、さくらの体力は落ちているのだ。
「このまま少し休ませてあげなさい」
セルヴァンに言われた通り芝生の上にさくらを寝かせると、ヨルクは固い表情でセルヴァンに近付く。
「なあ、セルヴァン。さくらの身体って・・・」
「だから言っただろう?『長く臥せっていた』と」
ドリトス様から確かにそう聞いた。
しかし、自分の身体を支える事すら出来ないほど、弱ってるとは思わなかった。
そして、身体が睡眠を求めるくらいに体力がないことも。
・・・それだけ長い間、さくらは『臥せっていた』という事だ。
「だから『無理はさせるなよ』」
セルヴァンに釘を刺されて、ヨルクは黙って頷いた。




