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第346話


「はい。手続きは以上で終了となります」


師匠に連れられてユリティアの冒険者ギルドへ入ると、受付にはすでに話が通してあったのか、ご主人様のパーティから追い出された私たちは、姉妹だけの新パーティとして登録が済んでいました。


〖 もうひとりとレベルに差が出来てしまい、一緒に行動するには無理な状況になったため、パーティを分けます 〗


師匠は受付でそう説明していた。

私たちはギルド証に新しくパーティ登録をして、冒険者用アイテムボックスを受け取りました。

師匠から受け取った銀貨3枚を手に、ギルド併設の店で各々の武器を購入した。

鉄の槍と鉄の剣。そして『解体専用ナイフ』を2本。

さらにテントと寝袋を含めた『野宿用品一式(2人用)』と『初心者用セット』を購入。

これらを銀貨3枚で支払い、お釣りは銅貨8枚。

ルーナは宿に泊まりたがったが、無駄遣いは出来ない。

屋台で食事をしたかったが、中央広場に入ると周りから「やっぱり獣人では『従者』ですら(つと)まらないのね」と白い目で見られた。

その上、「あの『ご主人』もまだ若かったから、従者も見下すわよね」など、ご主人様を非難する言葉も聞こえて、私たちは黙って通り過ぎるしか出来なかった。

町を出ると、私たちは初めて行ったダンジョンへ向かった。


「ルーナ。其処で私たちが『どれだけ戦えるか』を確認しましょう」


それに、魔獣を倒して、その肉で食事にしましょう。

その提案に、ルーナは嬉しそうに頷いた。



ダンジョンに辿り着く前に現れたウサギ。

そのウサギを1匹倒すのに5分。解体に2時間。

かすり傷を受けて、それでもなんとか倒して解体したウサギだったけど、今度はどう料理したらいいのか分からなかった。

そのまま丸焼きにしようとしたが、それすらどうしたら良いのかも分からなかった。

ひとまず、今日は此処でテントを張ることにした。

『野宿用品一式』から結界石を取り出して四方に置くと、その場に結界を張ることが出来た。

それから一時間かけて、ルーナとテントを張ることにも成功した。

そして、『初心者用セット』から『火の魔石』を見つけて火を起こそうとしたけど、使い方が分からなかった。

セットの中にあった本には、『拾ってきた枝を乾燥させて火をつける』とあった。

では火のつけ方は?と思って本を調べたら、『魔石の使い方』にあった。

魔石には魔力を流せば使えるとのこと。

ルーナと2人で周囲から枝を集めて来るとその一部に魔石で火をつけようとするが、何度繰り返しても消えてしまう。


「シーナ。乾燥させた?」


ルーナの指摘にそういえばそう書いてあったことを思い出した。

乾燥(ドライ)魔法なら少しは使える。

ルーナと手分けをして、枝を乾燥させていった。



1時間かけて、取ってきた枝を乾燥させた。

それに火をつけると、今度はちゃんと火がついた。

さあ、今度はウサギ肉を焼こう。

そう思ったが、ご主人様が購入していたフライパンも何もない。

枝の上にそのまま肉を置き焼いていく。


「ご主人さま。最後まで何も言ってくれなかった・・・」


座ったまま膝に顔を(うず)めていたルーナがポツリと呟いた。

スゥが結界の中へ呼ばれて1時間後、私とルーナは師匠から『今後のこと』を伝えられた。

私とルーナはパーティからだけでなく、『ご主人様の旅』からも外された。

従者ではなくなったということは、一緒に旅をすることもない。

その上で、師匠から『どうするか』と聞かれた。

ご主人様たちとは一緒にいられない。

ご主人様のそばにいることが許されたのはスゥだけ。

それは私たちがご主人様から離れたから。


いつもみたいに、ダンジョンから出てきたご主人様に笑って許してもらえるって思っていた。

・・・それが、結界を解除されて、武器が木製に変えられた。

ダンジョンから出てきたご主人様からは、ひと言も声をかけて貰えなかった。

いつもみたいにテーブルが出されて、私たちが座ろうとしたらスゥに止められた。

そして、私たちがスゥから叱られている時に、ご主人様は結界に覆われてしまった。

スゥが『ご主人様に休んでもらいたい』と師匠に頼んだからだ。

確かに、いつまでも私たちが叱られているのに付き合ってもらうより、休んでもらった方がいいと思う。

それでも、私たちはまだ『ご主人様に許される』と思っていた。

スゥからの説教が終われば『いつも通り』だと。



「2人は・・・この期に及んでも『気配察知』と『危険察知』を使ってないんだね」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。

ルーナも驚いていたから、使っていなかったのだろう。

いつもなら、魔物が現れたらご主人様か師匠が教えてくれていたから。

でもスゥは魔物の気配を察知していた。

師匠に報告して、1人で向かっていった。

スゥが手にしていた武器は短剣ではなかった。

その武器で『ウルフ5体』を一瞬で倒していた。

あれはそれだけ『強い武器』なんだろう。

そして、解体作業も手際よく1人でやっていた。



「本当に『何もしない』ね」


戻ってきたスゥは、私たちを冷たい目で見下ろしてきた。


「え?

でもすぐに倒したから・・・」


「解体は?」


「解体だってすぐに」


「5体いたのに?

解体だけでも経験値が貰えるのに、それすらやらないの?」


解体で経験値を貰えることは、確かに師匠から聞いていた。

でも・・・何故『動こうとしなかった』のだろう。

多分『(ねた)み』があったのは間違いない。

だって、スゥには新しい武器が与えられていたのだから。

それに気付いて『(ずる)い』と思った。

『卑怯』だと思った。

そして・・・『スゥはご主人様と一緒にいて強くなったんだから、弱い私たちを守るのが当たり前』だと思った。

いま、改めて考えれば、私とルーナは『試されていた』というのに。


〖 スゥ。ご主人がお呼びです 〗


「はい。すぐ行きます」


師匠に呼ばれたスゥは、浄化(クリーン)魔法を掛けて、自身についた魔物の臭いを完全に消してから結界に近付く。

その後ろを私たちもついて行ったが、〖 貴女たちは呼ばれていません 〗と師匠たちから止められた。

それに驚いていたら、いつの間にかスゥの姿はなかった。

私たちは、結界内へ入る事が許されなかった。

さっきの魔物の解体を手伝っていたら、私たちも結界の中に入れていたのだろうか。


・・・後悔しても、すでに遅かった。




丸焼きにしたウサギ肉は味気なかった。

塩や胡椒などの調味料を持っていなかったのだ。

そして、燃える枝の上に肉を直接置いていたため、『外はよく焼き、中はレア』だった。

それも、外側は木の(すす)や木屑などがついてしまったため、払ってから食べることになった。

レアな部分は火で炙りながら追加で焼いて、何とか空きっ腹に詰め込むことが出来た。


他に何もすることがなかった私たちは、早々にテントに入り寝袋の中へ潜ると、ルーナはすぐに眠ってしまった。


何をするにもお金が必要だ。

お金を稼ぐには、魔物を倒して解体し、それをギルドに売るしか方法はない。

あれほど弱く感じていたウサギですら、私たちだけでは上手く戦えていなかった。

いつも、ご主人様や師匠から指示をもらって戦っていた。

だから確実に短時間で倒せていたんだ。

・・・私は『強くなったつもり』でいたのだ。

私の実力だと勘違いしていたのだ。


私は・・・・・・なんて愚かだったのだろう。


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