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第345話


「2人は・・・この期に及んでも『気配察知』と『危険察知』を使ってないんだね」


スゥの言葉に一瞬言葉が出なかった。

その言葉通り、私は、多分ルーナも使っていなかっただろう。

ルーナも、スゥの言葉に目を丸くして驚いていたから。

スゥは、何処か私たちと違う方向を睨んでいた。


「師匠。ウルフが5体、此方(コチラ)に来ます」


〖 一人で出来ますか? 〗


「はい。・・・行きます」


スゥはその言葉の後、視認出来る範囲に現れたウルフの中に飛び込み、アッという間に倒してしまった。

その慣れた動きは、私たちが離れた後も一人でご主人様を守ってきた『(あかし)』だろう。

黙々と進めていく解体作業も手慣れた様子だ。

1時間もかけずに戻ってきたスゥは、冷たい目で私とルーナを見た。


「本当に『何もしない』ね」


「え?

でもすぐに倒したから・・・」


「解体は?」


「解体だってすぐに」


「5体いたのに?

解体だけでも経験値が貰えるのに、それすらやらないの?」


スゥが『解体のナイフ』を借りずに『解体専用ナイフ』を使って時間を掛けたのは、2人が手伝いに来るのを待っていたからだ。

・・・ムダな努力だった。


〖 スゥ。ご主人がお呼びです 〗


「はい。すぐ行きます」


スゥは自身に『浄化(クリーン)魔法』を掛けて、自身の臭いを消してから結界に近付く。

その後ろをシーナとルーナがついて行くが、〖 貴女たちは呼ばれていません 〗とハンドくんたちに止められて、結界内へ入る事が許されなかった。



「スゥ。お疲れさま。

座っていいよ。

もう『お昼ごはん』だから呼んだんだよ。

それと『伝えること』もあったし。

まだ短時間しか経ってないけど、スゥの気持ちを確認したいから」


「『伝えること』ですか?」


「心配しなくてもいいよ。

『ダンジョンで出会った女性たち』のことだから」


「あ!あのお姉さんたち!

大丈夫でしたか?」


〖 結局、テントの片付けなどが間に合いませんでした 〗


「それじゃあ・・・」


〖 テントの片付けを手伝って、転移に間に合わせました。

2人は、スゥの親切を無下にしてしまったことを謝罪していましたよ。

彼女たちは、ユリティアのギルドへ元パーティメンバーを訴えるそうです 〗


「お姉さんたち、無事に出られたんだ・・・良かったー」


ホッと安心した表情を見せたスゥはすぐに「アッ」と声を上げてハンドくんを見た。


「師匠。お姉さんたちのテントの片付けを手伝ってくれてありがとうございます」


ペコリと頭を下げたスゥ。

その頭を、スゥを担当しているハンドくんたちが撫でていく。

・・・スゥは気付いているのだろうか。

あの人たちの『正体』を。


(いず)れ知るでしょう。

その時まではそっとしておきましょう。

これ以上関わらないかもしれません。

そして、事実は『向こう』から告白させましょう。

これは『本人たちの問題』ですから、私たちは見守るだけです』


ん・・・。分かってる。


〖 良い子ですね。

あとでスイーツタイムにしましょうね 〗


ハンドくんはさくらの頭を撫でて、心配事から気をそらす。

今は何も出来ない。

だったら『その時が来るまで忘れていればいい』。




〖 さて。スゥ。

シーナとルーナに対して、『どうするのがいい』と思いますか? 〗


お昼ごはんのミートパスタを食べ終えたスゥに、ハンドくんは『本題』に入る。

途端に真面目な表情になったスゥは、一度両目を閉じて深呼吸をしてから目を開けた。


「ご主人。師匠。私の率直な意見を言ってもいいですか」


スゥの言葉に、さくらは黙って頷く。


「私は、あの2人には『別のパーティ』として自分たちだけで行動してもらった方が良いと思います。

師匠たちもなく、たった2人だけで。

さっき、ウルフが現れた時も2人は動きませんでした。

『気配察知』も『危険察知』も使っていません。

そして、私が師匠にウルフが出たのを伝えても、その2つを使うことも、武器を構えようともしませんでした。

ウルフを倒した後も、解体を手伝おうともしませんでした。

・・・ただ、草の上に座ったままでした。

だから、『自分たちのチカラで生きていくしかない環境』が必要だと思います。

私たちは、強いご主人や師匠たちに甘えていたのです。

『何かあっても、お2人に守ってもらえる』。

そんな『甘い考え』を持っていました」


「・・・スゥの考えはよく分かった。

その場合、彼女たちとは『別のダンジョン』に入った方がいいな。

何でもかんでも甘えられては困る」


〖 武器は返してもらいました。

彼女たちにはギルドで2人パーティを組んでもらい、自分たちで必要な道具も武器も食料も揃えてもらいましょう。

そして我々は手を貸しません。

本来、旅とはどういうものか。

戦闘とはどういうものか。

小規模ダンジョンに入って『やり直し』してもらいましょう 〗


「やっぱり・・・『何でも揃っている』し、『何でも買ってもらえる』状態だと、それに甘えてしまうのか」


「私たちは、ご主人に救われました。

そして、家族を探す旅に連れ出してくれました。

だから『その恩に報いる』ために、従者としてご主人を守ると約束しました。

・・・2人は、何時の間にその約束を忘れてしまったんだろう」


スゥは俯いて唇を噛む。


「スゥとハンドくんの言う通り、『パーティは別』『ハンドくんたちのフォローもなし』『今後、共闘することがあってもパーティの再編は当分なし』。

それでいいかな?」


「はい。私はそれでいいです」


〖 あの2人には『銀貨5枚ずつ』が妥当ですね 〗


「いえ。彼女たちには『違約金』の支払いがあります。

『2人で銀貨3枚』が妥当だと思います」


「銀貨3枚では、武器と『解体専用ナイフ』を買ったらそれほど残らない。

宿にすら泊まれないぞ」


「それでいいです。

私たちの村は、あまり裕福とは言えませんでした。

それでも、お互いが助け合い、手を取り合って生きてきました。

でも・・・いまの2人は違います。

『してもらうのが当たり前』です」


〖 確かに、料理をしようとすると、手伝うのはスゥだけ。

2人は、そばに立って『見てるだけ』。

言われてやっとテーブルの準備をする程度。

・・・『何もしないで見てた』んだから、出来るでしょうね 〗


うーん・・・ハンドくんが怒っているのは分かってたけど、スゥも結構怒っているなぁ。


「じゃあ、これからどうする?

とりあえず、2人には『決定事項』を伝えて・・・」


「ご主人は2人の前に出ないで下さい」


「ほえ?なんで?」


「ご主人が姿を見せれば2人は甘えます。

そして『謝れば許してもらえる』と考えます。

実際、ルーナはご主人が結界の中に入って姿が見えなくなった途端に、泣きながら謝っています。

偶然だと思いますが、地上に戻られてから、ご主人は一度も口を開いていません。

だったら、このまま『突き放す』形を取った方が、2人には『良い薬』だと思います」


「あれ?ハンドくん。話をしてなかった?」


〖 はい。結界を張ってからですね。

『2人のことはスゥに任せる』と決めたからでしょう 〗


「うーん。・・・その自覚はなかったな。

結界張る前も、ハンドくんと『口に出さずに会話』してたから、黙ってたなんて思ってないし」


()しくも『(もく)して語らず』となっていましたね。

ですが、『主従関係が破綻した』以上、主人が声をかけないことは『よくある』でしょう 〗


「でも、この先はどうするの?

町まで送って、ギルドへ連れてって、そこで『説明』が必要でしょう?」


〖 ギルドでの説明は、誰かをつけます。

町までは、転移で飛ばしましょう。

またダンジョンの入り口のようにグダグダされては迷惑なので、強制的にギルドまで行かせます 〗


「その前に『決定事項』の説明をします。

理解してもしなくても、それは自分たちで『理解する努力』をしてもらわなくてはいけません」


「・・・2人とも、『ツラい決定』をさせてゴメン」


「いえ。『ご主人の優しさ』に甘えた彼女たちが一番悪いんです」


〖 あの2人は主人の『優しさ』を逆手にとって、『従者という立場』から逸脱した。

『子供だから』と言い逃れは出来ません。

『契約』がどれほど重いものなのか。

・・・最年少のスゥが分かっている以上、数ヶ月年上のルーナ。それより年上のシーナ。

彼女たちが『分かりませんでした』『理解していませんでした』では済まない。

年長のシーナは特に 〗


『さくら。『誰が悪い』訳ではありません。

シーナは間違いなくユリティアの中では『従者とはなにか』を知っていました。

それを『探検で強くなる』と共に、『従者』という立場を忘れてしまったのでしょう。

従者として仕事をする代わりに、衣食住を与えられていることを忘れたのです。

この先、改めて『自分たちが目指す先』と、『そのために何をするべきか』を見つめるキッカケとなるでしょう。

それがスゥのように『成長に結びつく』と信じて、今は突き放しましょう。

辛いでしょうが、『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』ですよ』


これに関しては、私は『何が正しい』とは言えない。

ただ、今回のことが『魂の成長』に結びつけばいいと思っている。




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