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第333話



〖 遅い!シーナ!右から魔獣が来ているのが気配で分かりませんか! 〗


「すみません!」


ハンドくんの言葉に一瞬遅れてシーナが右を向く。

それと同時に、寸前まで迫っていた魔獣の眉間を光線が貫いた。


「シーナ。反応が遅い。あの状態から槍を構えていては、魔獣のツメで()られてる」


「はい!すみません!」


迷宮(ダンジョン)の中には、有名なゲームに出てくるようなコウモリや一角ウサギ。

それを捕食するウルフとベアが溢れていた。

入り口に『魔除け』の松明が燃やされていて、魔獣は中から出て来られない。

そのため、中は飽和状態。

狩っても狩っても、一向に減らない。

それはシーナたちのレベルが弱いため、威圧感が足らないのだ。

中に入ってまだ5分。

すでにシーナたちは疲労困憊状態だ。


「ハンドくん。出るよ」


〖 はい。シーナたちは下がっていなさい 〗


「まだ戦えます!」


〖 足手まといです 〗


ハンドくんの冷たい言葉と共に、シーナたちは他のハンドくんたちに掴まれて背後へ投げ出される。

鵡鳳(むほう)を構えたさくらと、鋼鉄のハリセンを手にしたハンドくんは、魔獣を次々と蹴散らしていく。

目の前に集まっていた100体を超す魔獣たちは、一体残らず(むくろ)と化していた。

その間、3分もかかっていない。


「あー!しまった!初っ端(しょっぱな)の景気づけに一発、『金ダライ』を落とせばよかった!」


〖 次の魔獣に落としましょうね 〗


「うー。今度こそ、『試合開始のゴング』を・・・」


せっかく『金ダライ』を落とせるチャンスを忘れて残念がるさくらの頭を、ハンドくんは慰めるように撫でる。

ハンドくんも、目の前に溢れている魔獣を片付けることに意識が集中してしまい、『金ダライ』のことを忘れてしまっていたのだ。


「あの、ご主人様・・・」


シーナが声をかけると、ハンドくんから〖 何ボサッとしているのです?早く魔獣を解体しなさい 〗と叱られて、慌てて近くの魔獣から解体を始めた。





〖 貴女たちは、なぜ、戦いの最中に『気配察知』を怠ったのです?

さらに『危険察知』まで怠るとは!

それもペース配分を怠り、5分でスタミナ切れとは何ごとです!

ご主人様を守る『従者』がご主人様に守られてどうするのですか! 〗


ハンドくんのお説教に、正座して項垂れて聞いている3人。

これはさくらでもフォローは出来ない。

『気配察知』も『危険察知』も、戦闘では大事なことだから。

まず『気配察知』は、何処に敵が潜んでいるかを知るため。

そして『危険察知』は、どの敵が襲って来るのかを知るため。

特に背後の敵には一番注意しなくてはならないというのに・・・

そんなことも出来なかったのだから、ハンドくんが叱るのも仕方がない。

さくらが手を出さなければ、3人は何十回攻撃を受けて、何回死んでいただろう。

そして3人はその事に気付いているから、深く反省している。


「ハンドくん。お説教はそこまでにして、先に進も?

3人は、ハンドくんから注意されたことを繰り返したら、その度に1回ずつ食事抜きね」


さくらの言葉に青褪めるスゥとルーナ。

育ち盛りの2人は『食事抜き』と言われたことが効いたようだ。

シーナは「すみませんでした」と頭を下げる。

ハンドくんに『足手まとい』と言われたことを引き摺っているようだ。


「シーナ。『誰かを守りたい』なら、まずは『自分を大切』にしなさい。

その時は自分を犠牲にして助けられても、その後で『守りたい相手』が別の何かに襲われて死んでしまうことだってあるんだからね」


さくらの言葉に、真っ直ぐな目で「はい」と返事をしたシーナ。

その横で、スゥとルーナも黙って力強く頷いた。




それからは、3人は戦い方を改めた。

最初の戦闘ではバラバラに散って、目の前に現れた敵と戦っていたのが、シーナを中心に連携が取れるようになっていた。

そのため、スタミナ切れを起こすことも減り、さくらとハンドくんが戦うこともなくなった。

しかし・・・


「行っけー!『金ダライ』!」


毎回さくらが笑顔でぶっ放す『試合開始のゴング』が、魔獣の数を減らし金ダライのレベルを上げているのは確実だった。



早めの夕食を食べてから部屋へ戻ったさくら。

シーナたちも部屋へ戻り、反省会を開くそうだ。

其処には彼女たちの『先生役』をしているハンドくんたちも参加するらしい。

さくらは『頑張ったごほうび』として、ショートケーキを出してもらっていた。


「ねえ、ハンドくん。今日の3人の戦い方、どうだった?」


〖 まだまだですね。

特にボス戦はなっていません 〗


「そうだね。

ルーナはボスの大きさに驚いて怯えてたし、シーナもそんなルーナを庇って無茶するし。

唯一、ペースを崩さなかったのはスゥだけだね。

スゥは最後まで前線に立っていられていたし、『拘束(チェーン)』魔法で押さえたとはいえ、ボスにとどめを刺せた」


〖 そうですね。

最初の戦闘でも、スゥは相手の攻撃を上手く封じて戦っていました 〗


そう。ハンドくんたちが注意していたのは、シーナとルーナの姉妹だけだった。

その分、魔獣を倒した数が多かったため、真っ先にスタミナ切れを起こしたのだ。

それでも、全体から確認すると半数はスゥの功績だ。

だからこそ、スゥは3人の中で一番レベルが高くなった。

迷宮(ダンジョン)に入るまでは、3人は共にレベル3だった。

それが、ボス戦を終えて地上に戻ると、シーナはレベル8。ルーナはレベル7。そしてスゥのレベルは12だった。


「ハンドくん。あの子たちに『防御力』か『攻撃力』アップのアイテムでも装備させたほうがいい?」


〖 いえ。そんなことをすれば、彼女たちは『自分の実力』と誤解するでしょう。

スゥは慎重な分、たとえ強くなっても変わらないでしょう。

しかしシーナとルーナは、間違いなく『強くなった』と思い込むでしょう。

特にシーナは、その傾向が強く出ます。

鍛錬の時に補助魔法で身体強化させたら、それを実力と勘違いしたそうです。

覚えていますか?

あの『槍を練習したい』と言い張った時です 〗


「ああ。あったね〜。

どの武器を使うかって決めた日だよね。

試しに鋼の槍を持たせて構えさせたら、1分ももたずにギブアップしたっけ」


〖 あの時、身体強化を試して『本来のチカラ』と『強化したチカラ』を体験させたそうです。

それでも『鋼の槍』が持てなかったことにショックを受けたようです。

それも途中で強化が切れたため、持ち続けられなくなったようです 〗


「鋼の槍と言っても小素槍(こずやり)だし、刃と石突がハガネなだけで長い柄は筒状で中身は空洞だから、通常の小素槍や二間槍(にけんやり)より軽いはずなんだけど・・・」


〖 さくら。そんなシーナのことを何ていうか知っていますか 〗


さくらは一度首を傾げて考えてから左右に振る。


〖 『自意識過剰』と言います。

あの時、さくらが軽々持っていたのを見て甘く見ていたのですよ 〗


「困った子だね〜」


〖 仮にも『命の恩人』を見下す事をしたのです。

我々が鍛錬を手加減するはずがありませんよ 〗


「ハンドくーん・・・」


〖 大丈夫です。

今はさくらの事を敬うようになったでしょう? 〗


「ルーナやスゥは?」


〖 スゥは純粋にさくらを尊敬し慕っています。

ルーナは様子見ですね。

最初の頃は(シーナ)の影響を多分に受けていましたが、スゥがさくらに全面的な信頼を寄せているのを見て考え方が変わりつつあります。

今はスゥを見倣うようになりました 〗


「それって良いことなの?

ルーナの依存が、シーナからスゥに移っただけじゃない?」


〖 そうですね。

ですが、少なくとも『姉のマネをする』から、『姉とは違う行動をする』に変わっています。

今までは、周りから『姉だから・妹だから』と言われて、それに従っていたのでしょう。

この先、『自分で考えて行動をする』事が出来れば、彼女たちは大きく成長出来るでしょうね 〗


「彼女たちにとって『良い方向』に導けるといいね」


〖 ええ。シーナは成長してるため大人と同じ考え方になってます。

それを変えるのは大変でしょうが、少しでも良くなるように頑張りましょうね 〗


偏見の目で見られ、虐げられてきた獣人族だから、偏った考え方を持ってしまったのだろう。

それを少しでも変えられたら・・・

それは彼女たちが『周りに認められる存在』になれば、自ずと変わってくるのではないだろうか。


〖 今は『戦い方』を身に着けてもらいましょう。

さくらがフォローしなくても戦えるようにならなくては。

今日の魔獣たちは、最下位に位置する弱小集団です。

それでも、あれだけ梃子摺ったのですから、当分は『解体練習』も兼ねてダンジョン攻略に連れて行くしかありませんね 〗


今日行ったダンジョンは、瘴気が溜まって魔獣が生み出されるまで入り口が閉鎖される。

次に入り口が(ひら)くのは約10日後。

そして、この町の滞在予定は10日。

別のダンジョンを回った方が効率がいいのではないか?

ダンジョン踏破の成果が増えれば、ギルド内での名声も上がるし、シーナたちを見る目も変わるだろう。



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