第328話
ハンドくんはベッドの中にいるさくらの頭を撫でながら、他のハンドくんたちへ『指示』を出していく。
『さくらの冒険旅行』に同行しているのは、『ハンドくん一族』のごく一部、100人だ。
『恐竜島』や『別荘』などの無人島諸島の管理に200人。
そして、残りはアリステイド大陸の各国に散らばっている。
『人数』で見ると多く感じるが、実際は『左右一対』で行動するため『半数』になる。
そして今、『各地の情報』を受け取り、精査し、足りない情報を集めてくれるように細かく指示を出す。
また、『不穏な様子』を見せている国や領地に関しては、引き続き『様子観察』を指示。
同行しているハンドくんたちの一部には、泳がせている『アイテムショップ関係者』3人の動向を追わせている。
彼らは馬や乗合馬車を使って『落ち合う約束の地』に向かっている。
この町でさくらと接触されるのを防ぐため、『正式ではないルート』と『寄り道』で到着を遅らせた。
もちろん『さくらの冒険旅行』なので、「寄り道したい」と言われればもちろん止めない。
私はともかく、さくらも他のハンドくんも共に『向かうところ敵なし』のため、『魔獣と対戦』しても問題はない。
逆にシーナたちの『鍛錬』のために対戦させたほうが良いだろう。
しかし、魔獣をただ倒すだけでは意味がない。
『ギルド』に登録していないと、魔獣肉はおろか『ドロップ品』を売ることも出来ないのだ。
そのため、この町で一番の目的だった『ギルド登録』を済ませた。
まさか『自分たち』まで登録することになるとは思いもしなかったが・・・
しかし、『召喚生物』として登録したことで『認識される』ことになり、隠れる必要がなくなったのはメリットだろう。
さくらの嫌う『悪い奴』は、さくらが『一人』だと思って『襲ってくる』のだ。
しかし『自分たちの存在』が知られれば、『抑止』にはなるだろう。
自分たちはこの世界では『存在していない』種族だが、すでに『魔法生物』として神々・・・創造神に『認められている』。
そのため『姿を見せても問題はない』と言われた。
しかし、自分たちを『召喚』する者が現れないとも限らない。
そのため『特殊召喚』に設定してもらった。
元々自分たちは『さくら専用』だ。
それを改めて設定することで、自分たちを『悪用』されなくなる。
さくらの『敵』になる心配もなくなった。
さらに・・・さくらは嫌がるが、難しい依頼を熟せば我々が『強い』と分かるだろう。
そうすれば『襲われる可能性』もへ
もちろん、さくらを戦わせる気はない。
『過保護』と言われようと笑われようと、徹底的に守るつもりでいる。
さくらに怖い思いをさせるくらいなら、笑われた方がはるかにマシだ。
戦いの雰囲気に慣れて「自分もやる」と言い出したら、『後衛』で魔法を使ってもらう予定だ。
魔法も『無詠唱』だから何発でも発動させられる。
銃は、今の状態では前衛で戦うシーナたちに当たる危険性がある。
戦闘に慣れてきたら、彼女たちの『動き』も分かるだろう。
彼女たちもレーザー銃の動きが分かるようになれば、気配で避けられるハズだ。
セルヴァンの話では「危険が迫れば、獣人は『本能』で避けることが出来る」らしい。
つくづく『さくらの世界に存在する野生動物の本能に近い』と思う。
・・・逆に『対策がたてやすい』とも言えるが。
もし幼い彼女たちが『危険を察知して避けられる』ようになれば、さくらも銃が使えるようになる。
さくらが使いたがっている『金ダライ』も、魔物相手なら気にせず使えるだろう。
〖 どうしました?眠れませんか? 〗
頭を撫でながら、小声でさくらに問いかける。
ハンドくんの声にさくらは目を開く。
その目には『不安』と『怯え』を含ませている。
さくらは『昼間のこと』を気にして眠れないようだ。
「ハンドくん・・・わたし・・・」
〖 あれで『良かった』のですよ 〗
〖 『カワイイさくら』が動かなかったら、私が『息の根』を止めていました 〗
〖 遅くありません 〗
〖 どうせですから、今から何人かに息の根を止めて来るように命じましょう 〗
〖 ああ。ですが『私自身が直接手を下したい』ので、引き摺り出しましょう 〗
〖 ついでですから『城壁外ホームラン』で『飛距離ランキング』でも競わせましょうか 〗
〖 大丈夫です 〗
〖 彼らは、誰よりも強くて優しい、私たちの『カワイイさくら』を馬鹿に出来る冒険者ですから、『着の身着のまま』で『魔獣の巣』まで飛ばされても生還出来ますよ 〗
「でた!ハンドくんの『カワイイ』攻撃!」
〖 さくらが『カワイイ』のは本当ですから 〗
ハンドくんの『カワイイさくら』の連呼に、さくらの表情が緩む。
そんなさくらのほほを撫でると、さくらが手を添えて擦り寄る。
さくらがハンドくんに『甘えたい』時にやる無意識の仕草だ。
『まるでネコのようだ』とハンドくんは思うが、この仕草は他の人にはしない。
いつもなら頭を撫でるが、いまはさくらに握りしめられているため、代わりに左手のハンドくんが頭を撫でている。
〖 さくら。『大丈夫』ですよ 〗
〖 さくらに『瘴気の影響』は出ていません 〗
〖 あの時は『怒って当然』なのです 〗
〖 『知らない』から『相手を傷つけていい』なんて言い訳は通用しません 〗
〖 知らないなら『余計なことを口にしない』のが正しいのです 〗
「本当に?・・・・・・本当に『影響』ない?」
〖 ありません 〗
〖 だいたい、さくらは『清浄化』の効果を持つ上着を着ているのですよ? 〗
〖 『効果が足りない』なら『強化』させます 〗
〖 『販売されていた』のは分かっているのです 〗
〖 今から、神に重ねがけをさせても問題はないでしょう 〗
〖 この部屋も『さくらの魔石』で清浄化させています 〗
「でも・・・あの時、は・・・」
〖 誰が見ても話を聞いても『相手が悪い』と認めたでしょうね 〗
「でも・・・手を出しちゃったし、『わるいこと』言っちゃったよ?」
〖 時には『目に見える脅し』も必要です 〗
〖 今度からは『手も口も足も出してこない』でしょう 〗
〖 見くびっていた『おこちゃま』に一瞬で組み伏せられたのですから 〗
〖 あのあと警備隊に通報されましたから、『笑い話』として町中に広がったようですよ 〗
〖 『新人に絡んだら一撃で床に沈められた』なんて・・・流石に恥ずかしくて、二度と『さくらの前』に出て来られないでしょうね 〗
〖 ・・・やっぱり。同じ町にいるだけで『目障り』ですから、『城壁外ホームラン』をしてきましょう 〗
〖 カワイイさくらが安心して眠られない『原因』は、いますぐ『片付け』て『存在を抹消』するべきです 〗
〖 私のカワイイカワイイさくらの『カワイイお顔』に『クマ』なんて作らせたら、全員を切り刻んで地面に埋めましょう 〗
「そして春になったら地面から『ニョロニョロ〜』と・・・」
〖 頭を出した時点で『ピコピコハンマー』で叩いて地中に埋め戻しましょう 〗
〖 しつこく出てくるようなら『金ダライ』の出番ですよ 〗
〖 上から『漬物石』を乗せても良いでしょうね 〗
さくらは『その光景』を頭に思い浮かべて、思わず吹き出した。
クスクスと笑い続けるさくらの『ココロの中』が穏やかになったことを、ハンドくんは感じ取っていた。
〖 さくら。これからも今みたいに『素直に感情を表に出していい』のですよ 〗
「・・・いいの?」
〖 はい。さくらはこの世界に来てから今まで感情を『押し殺し過ぎた』のです 〗
〖 旅の間は『私たちだけ』ですから、気にすることはないですよ 〗
〖 誰に遠慮することなく、バンバン暴れて『ストレス発散』しましょうね 〗
〖そうそう。『金ダライ』も使い放題ですよ 〗
「いいの!?」
〖 もちろんです 〗
〖 魔獣や魔物の頭にバンバン落としていきましょうね 〗
ハンドくんは『さくらが気にしていること』が分かっていた。
それを『どれだけ軽減させられるか』で、今後『さくらのココロ』が負担なく楽しめるか変わってくる。
ハンドくんの『カワイイ』は、この冒険旅行が始まる前から・・・『この世界』にきて無人島で身体を慣らす前、マンションで過ごしていた時から始まっていた。
その頃からハンドくんはさくらを『ねこっ可愛がり』して甘やかしている。
エルハイゼン国に行っても、それは続いていた。
ただ、セルヴァンたちがいる前では『自制』していただけだ。
そのため、今は『ねこっ可愛がり』が復活しているのだ。
否。自制していた反動で、さらに『拍車がかかっている』ようだ。
当のさくらは、ハンドくんの『過度の甘やかし』を無邪気に喜んでいる。
その様子を、創造神とアリスティアラは『猫の親子のようだ』と笑いながら見守っている。
そして、2人の上位神に止める意思がない以上、誰も止めることが出来なかった。
・・・そんな創造神から『好きに暴れていい』と許可を貰ったのだ。
ハンドくんはさくらを『危険な目にあわせない』と信頼しているからに他ならない。
もしもそれが原因で『周りの被害』が大きくなったとしても、それは『自業自得』であって、決して『さくらやハンドくんのせい』ではない。
『なるべくしてなった』『何時かは起きたこと』であり、それに『さくらたちが巻き込まれた』だけの話だ。
さくらには『自由な旅』を満喫してもらいたい。
待ちに待った『異世界観光旅行』なのだから。
最後まで楽しい旅行をさせたい。
そして『さくらを信じて帰りを待つ人たち』のところへ『楽しい土産話』をたくさん持って帰る。
それが、この旅行を『快く送り出してくれた人たち』が『一番望むこと』だろう。




