第325話
当時食料品を売ってくれなかった露天商たちは、ボズが『報奨』を受け取ると色々と『売りつけよう』としたらしい。
それも『最大5倍のぼったくり金額』で・・・
そんな連中は『詐欺罪』で露天商の管理事務所から訴えられて、警備隊に捕縛された。
管理事務所も、この件ではピリピリしていたらしい。
というのも、王都から『監督不行届』の罪を遡って問われ、『ゴルモアに『許可証』を出して以降の管理者全員』が『王都行き』になったからだ。
此方は罪を問われたのは『本人』だけで、『家族や親族』は罪を問われなかった。
それらすべてを『ボズが『ゴルモアを見逃さなかった』せいだ』と責任転嫁して、ボズを責める者も現れたようだ。
「『お好み焼き屋の娘』もな。父親が管理事務所で働いていて『奴隷落ち』したんだよ」
「最大で5年の『期間限定』だけどな」
「奴隷商人に『売られた』あとにな。母親が「亭主を売って貰った報奨金を寄越せ」って暴れてな」
「その時に『脅し』で宿の一部を『吹き飛ばそうとした』んだ」
しかし『反射魔法』のかかっている宿屋の被害は、魔法はすべて弾いたが衝撃波による振動で窓ガラスや壁の一部に少しヒビが入っただけで済んだ。
それに怒って宿に向けて雷魔法を何発も放ったが、『反射魔法』の効果でそれ以上の被害は出なかった。
しかし、反射したり外れた攻撃魔法が周囲の建物を破壊。
崩れた壁の落下で負傷者が出たため警備隊が駆けつける騒動となった。
『母親』はその騒動で現れた警備隊から逃げる際、さらに攻撃魔法を使ってしまった。
町には『反射魔法』がかけられた建物が多い。
そんな建物の壁が攻撃魔法を乱反射させて建物を崩壊させてしまった。
その中に『馬舎』も含まれていた。
馬たちが暴れて、半壊した馬舎を更に壊して町の中に飛び出してしまった。
パニックは他所の馬舎にいた馬たちにも伝染って被害を拡大させた。
騒動に気付いて馬たちを魔法で眠らせた馬舎や、敷地内に『反射魔法』をかけている馬舎もあったが、騒動は『拡大化』していった。
逃げ出した馬たちの一部が『飼い主を求めて』広場に現れたため人々は逃げ惑い、露店や屋台は破壊されて広場は混乱の坩堝と化した。
夕方のため露店の大半は店じまいしていたが、屋台は軒並み『書き入れ時』で客も多くいた。
そこに『興奮状態』の馬が現れたのだ。
我先に逃げ出す客たちの様子に、更に興奮して走り回る馬たち。
そんな中で、屋台の一画で爆発が起きた。
原因は今でもわからない。
・・・その爆発で、多数の死傷者が出たのだ。
捕縛された『母親』は王都に送られた。
間接的とはいえ、多数の死傷者を出してしまった彼女は、そこで生命を『終わらせる』事になるだろう。
そして残された娘は『父親の姉』に引き取られた。
露天商と同じく、町から町へと旅をする『はぐれ屋台』と呼ばれる商いをしているそうだ。
娘は生まれ育ったこの町に残りたかった。
此処で『家族の帰り』を待ちたかったのだ。
しかし、父親はともかく、母親は『事件を起こした張本人』だ。
娘が連座で『王都送り』にされなかっただけマシだろう。
・・・ただ、この町に彼女の『居場所』はもうない。
彼女も薄々気付いているのだろう。
だから初見だった『ヒナルク』に『嫌がらせ』をしたのだ。
日々の鬱憤を少しでも軽くするために。
その後、詰所に連れて行かれた彼女は、誰でも取り調べの前に受ける鑑定石で『罪名:虚偽』と『罪名:侮辱』が追加されていることを知った。
そして『称号:銀板に無礼を働いた者』がついている。
従来の『侮辱罪』は『申告もしくは告発制』だ。
ただし、相手が『金板や銀板』の場合、自動で罪状が追加される。
『ヒナルク』は『銀板所持者』のため、本人の意思と関係なく自動で追加されたのだ。
結果、『即日追放』の処分となってしまった。
・・・今頃、町を追放されているだろう。
『守りたかった居場所』を、彼女は自らの手で壊してしまったのだ。
「ボズは何ひとつ悪くない」
「『門番』という仕事に誇りを持っている事は素晴らしい」
「責められるのは『誇り高き仕事』を汚した者たちの方だ」
「ボズはこれからも胸を張って生きていけばいい」
変わらず、酔って騒いでいたボズ。
そんなボズの座るテーブルに戻り、真っ直ぐボズの目を見て、言葉に魔力をこめて話す。
すると「そうだ。俺はこれからも『門番』として胸を張って生きていくぞー!」と『宣言』をして、再びテーブルに倒れ込んで気持ち良さそうにイビキをかきだした。
「すっかり『心の重荷』が無くなったようだな」
先程まで眉間にシワを寄せて苦しそうだった『寝顔』は、今では『酒にのまれた普通の酔っ払い』のようだ。
他のテーブルの客も、わざわざ見に来ては安心したように笑っていた。
「それにしても・・・『オレのせい』でヒドイ目にあったんだから、逆に恨まれても仕方がなくないか?」
「いや。あの後に『となり町の管理事務所は一切の罪を問われなかった』と広がってな」
「それどころか『美味しい果実のお礼をしたいから、どこの村の果実か教えてくれ』と頼まれたって話でな」
「別に『オレ自身』には何の被害もなかったからな」
「そいつさ。そいつが『ボズを救った』んだ」
「この町では『銀板』に手を出したら、周りも一緒に責任を取らされるのが『当たり前』だったのさ」
「つまり『この町のやり方が間違ってる』って指摘されたんだ」
それまではボズが『槍玉に挙げられてきた』が、一転して『町の仕組み』が見直され、ボズは『被害者』となった。
逆に『腐った社会でも正しい事をし続けてきた』と褒め称えられた。
今までボズを責めてきた町の人たちは『謝罪したいがプライドが邪魔をする』状態らしい。
更に『逆の立場』となって責められている人もいたようだ。
それも今は表面的に『落ち着きを見せてきた』そうだ。




