第318話
広場の一角にあるベンチに座り、スゥとルーナの『報告』を聞く。
彼女たちとシーナは、『焼肉串』を食べてきたらしい。
スゥは『塩を振ったとり肉』。
ルーナは『タレがついた肉なら何でも』。
シーナは『魔獣肉』が美味しかったらしい。
「何の魔獣?」と付き添っていたハンドくんに聞いたら『猪肉です』と教えてくれた。
まだ『足りない』様子の2人を見て「もう一度行っておいで」と言うと目を輝かせる。
「シーナ。2人のこと頼んでいいか?」と、ベンチに座らず立っていたシーナに聞くと「はい」と頷いた。
「それでご主人様は?」
「オレはもう暫く此処で休んでから動くよ」
「分かりました。此処は『警備隊』が多いですが、どうかお気をつけて下さい」
「ありがとう」
シーナには悪いけど、もう『困ったこと』に巻き込まれちゃったんだよね。
・・・あれ?
ルーナがシーナから睨まれてる。
反対隣に座ってるスゥを見たら「ルーはね。お店のおばあちゃんを『イジメていた』男の人を「エイ!」ってやっちゃったの」と教えてくれた。
「だって。おばあちゃんが『売り切れた』って言っても『何とかしろ』って」
「何とか出来ないなら並べてあるやつを『タダで寄越せ』って」
「だからといって『突き飛ばす』のはダメです」
『『何処かの誰かさん』がエルハイゼンの城下町で『全く同じこと』をやりましたね』
『被害者は『おばあちゃん』ではありませんが』
・・・耳がイタイ。
ルーナを見るとシュンと落ち込んでいる。
「ルーナ。何のために『隠密行動』の練習をやってるんだ?」
私の言葉にハッとして此方を見てきた3人。
あれ?『気付かれてない』と思ってたのか?
「『気配を消す』練習や『音を立てずに歩く』練習を『鍛錬』で取り入れてるだろ?」
「別にそれが『悪い』と言っていない」
「ただ『使う時』を間違えるなよ」
私の指摘に3人は真面目な表情で聞いていた。
ねえハンドくん。
魔獣って『倒したら魔石になる』んじゃないの?
『『魔獣』には二種類あります』
『『魔石化したもの』に瘴気が蓄積されて生まれたものと、『野生の動物』に瘴気が蓄積されて姿を変えたものです』
『そのため、倒したら『体内に溜まった瘴気』は魔石になりますが、肉体は無くなりません』
『体内の瘴気が消えるため、『家畜』同様に食すことが出来るようです』
そうなんだ。
まだ一度も『魔獣と対峙』したことない・・・か、ら・・・・・・
『心配しなくても『大丈夫』です』
『さすがのさくらでも、敵とは『ココロを通わせる』ことは出来ませんよ』
ハンドくんはそう言いながらさくらの頭を優しく撫でる。
さくらの『不安』を少しでも取り除くように。
さくらは『自分は敵の『最期の叫び』に耐えられるのか』を心配したのだ。
ココロが繋がった状態で『魔獣を倒した』ら・・・
その不安が『恐怖』になる前に、ハンドくんは不安を取り除きたかったのだ。
『『もしも』の時は、さくらに『結界』を張ります』
『『自分たち』を信じて『守られて』もらえますか?』
うん。
『ハンドくんのいうこと』にウソはないもん。
ハンドくんが『守る』って言ったら、絶対に守ってくれるもん。
さくらの『深い信頼』にハンドくんは改めて誓う。
『相手がどんなに強敵であろうとも、必ずさくらのココロと笑顔を守り抜く』と。
そして『来る日』には・・・・・
ハンドくんに『不安』を取り除かれたさくらは、露店・屋台巡りの続きに戻った。
ハンドくんはちゃんと『下調べ』してあるのか。
ハンドくん同士の『情報収集』が済んでいるのか。
屋台のメニューのことも『どんなもの』なのかをすべて説明してくれた。
3人が『気にいった』という『焼肉串』の屋台に近付くと、確かに『タレの焼ける芳ばしい匂い』が美味しそうだ。
・・・食べてみたい。
スゥが言っていた『塩の焼き鳥』は日本の『焼き鳥』と違うのかな?
タレ味も食べてみたいし、猪肉に近い『魔獣肉』にも興味がある。
『食べてみますか?』
『『串』ではなく、少量ずつ全種類が楽しめる『皿盛り』がありますよ』
あ!それ食べてみたい!
『ではイスに座って待っていましょう』
・・・?此処は『レストラン方式』?
『いいえ。『理由』はすぐに分かります』
ハンドくんに促されて、空いているイスに座る。
そこにはテーブルもあり、屋台の料理を持ち込んで食べられるようになっているらしい。
少しすると「ごっ主人さまー」という声が聞こえた。
声のした方を見ると、列に並んでいるスゥとルーナが手を振っている。
シーナが何か注意するように屈むと同時にハンドくんから『ピコピコハンマー』で頭を叩かれていた。
はい。そんなところで大声を出したり、大きく手を振ったりする行為は『周りに迷惑』です。
・・・叩かれて当然だね。
あの子たち、また此処に戻っていたのか。
だから『待って』いれば良かった訳だ。
『彼女たちについている仲間に買ってくるように伝えました』
『彼女たちは一周したみたいですよ』
『ですがシーナ以外は『露店』に興味が無かったようです』
あの子たちには『この世界の料理』を教えなきゃね。
それも『この世界の道具』で作れるように。
『『この世界の料理』なら『銀馬亭』で覚えました』
『道具はこの町に『冒険者ギルド』があります』
『そこなら色々と購入出来るようですよ』
『冒険者ギルド』って、ゲームなどにある『アレ』のこと?
『そうですよ』
・・・私も『ギルド』に入ったほうがいいの?
『仕方がないでしょうね』
『彼女たちだけで『パーティ』を作ると、さくらは『お留守番』ですよ?』
私だけ『別行動』ってこと?
『パーティに入っていないと『一緒に冒険』は出来ないですし『報酬』も出ません』
『連れて行くのも、ついて行くのも無理です』
『イヤでも『やる気がなくて』も、リーダーとして名前だけ入れておきましょう』
『大丈夫です。さくらは『誰よりも強い』ですし、実際に戦うのは『彼女たち』です』
でも・・・いつか『いなくなっちゃう』んだよ?
それでもいいの?
『『パーティの解散』があります』
『その頃には彼女たちも『独立』出来るようになっていますよ』
『それに彼女たちは『さくらと一緒』じゃないとギルドに登録しません』
ハンドくんの『説得』で、さくらも一緒に登録することにした。
「此処が一番『屋台が集中』してるな」
「はい。『安くて早い』です」
「それに『美味しい』んだよ」
・・・どこぞかの『牛丼屋チェーン』ですか?
「ご主人さまは『焼肉串以外』に何か美味しいの食べた?」
隣からルーナが興味津々な顔で見上げてくる。
同じ様な顔で反対隣に座るスゥと、正面に座るシーナ。
「オレは『お好み焼き』を食べたよ」
「お好み焼きー?」
「あったかなー?」
「ありましたよ。『臨時休業』の札が出ていました」
「ああ。大量注文を受けていた『予約』か『弁当』でも届けに行ったんじゃないかな?」
「残念でしたね。2人とも」
落ち込むルーナとスゥ。
正方形のテーブルの『一辺』に一人ずつ座らされているのは、ハンドくんから〖 お行儀よく出来ませんか? 〗と注意されたからだ。
『ピコピコハンマー』を出される前にシーナから「2人とも。ご主人様に恥をかかせる気ですか?」と言われて『お利口』に座ったのだ。
シーナたちについていたハンドくんたちの話だと、『『節度のない行動』を繰り返す従者を連れた『主人』が、周囲から嘲笑われていた』らしい。
『人の振り見て我が振り直せ』か。
『丁度良い『お手本』がいましたね』
・・・でも『いつまで』もつのかな?
『喉元過ぎれば熱さを忘れる』って『ことわざ』もあるからね。
『『ピコピコハンマー』の出番ですね』
彼女たちが問題を起こしたら、私が『監督不行届』で責を受けるのかなー。
『安心して下さい』
『その時は『この大陸全員の記憶』を消して、彼女たちとは『無関係』になりますから』
『そうなったら、彼女たちは『アリステイド大陸』に生まれなくなりますが、それは『仕方がない』ですね』
・・・・・・彼女たちについてるハンドくんたちも『それでいい』の?
『仕方がないですね』
『『教えたことが守れない』のですから』
『もちろん『そうならない』ように厳しく躾ます』
『ですが、自分たちがどんなに頑張っても、彼女たちが『自ら変わろう』としない限り『意味がない』のです』
『無理だと判断した時は、躾は一切諦めます』
彼らは、けっこう『辛辣』なようだ。




