第314話
久しぶりの町だからといって燥いではいられない。
町に近付くと、さくらは全員を車からおろし、愛車を『アイテムボックス』にしまう。
今までも村に近付くと同じことをしていた。
さくらの軽自動車は『魔法道具』なのだ。
町や村に張られた魔法が『異常をきたす』事になってはいけない。
その結果、『人々の暮らし』が魔物たちに脅かされることになったら・・・
さくらはそれを心配しているのだ。
毎回、町や村に入る前にシーナがスゥとルーナに『気をつけること』を教えている。
・自分たちは『ヒナルク様』の護衛。
・許可なく武器は使わない。
・『ご主人様』に迷惑をかけない。
それでもシーナを含めた彼女たちが『人族のルール』に反することをする可能性はある。
それを未然に防ぐために、ハンドくんたちが彼女たちの行動を『見守る』そうだ。
鍛錬の結果、『初心者』に毛が生えた程度ではあるが、各々の武器を使えるようにはなった。
しかし『使いこなせないと意味がありません』ということで、彼女たちには護身用に『木製武器』を持たせている。
もちろん『普通』ではない。
攻撃力は木製武器と変わらないが、強度が『尋常ではない』のだ。
たぶん、鉄製でも『傷ひとつ』付けることは出来ないだろう。
「さあ。そろそろ行くぞ」
「はい!ご主人さま」
シーナが返事をして殿につく。
私の両側にはスゥとルーナがついた。
彼女たちはハンドくんから『護衛』として行動するように言われている。
それは『危険察知』の訓練にもなるのだ。
下の2人には〖 『正義の味方』になる『訓練』です 〗と教えたら『やる気』を出しているようだ。
もちろんハンドくんたちも今まで通り『仕事の一環』として警戒をしてくれることになっている。
彼女たちの『ご主人さま』にはいい加減慣れてきた。
実はハンドくんに『さくらとは『主従関係を結んだ』ことになっていますから』と言われたのだ。
銅板の彼女たちが町に入るには色々な『制限』がある。
ただし『銀板所持者の従者』の場合、滞在日数の制限や滞在費用、更新費用が免除される。
エンテュースでもあったけど、『銀板』と『銅板』の待遇が違うのだ。
彼女たちを『お店の外で待たせる』のはイヤだし、同席が許されない食堂もあるらしく、食事を『一人でとる』のも味気ない。
それが『従者』、『護衛』なら『主人と一緒にいる』のが当たり前になる。
『食事を一緒にとる』のを嫌がる『金板』や『銀板』はいる。
『嫌味なこと』を言われるだろう。
〖 何を言われてもガマンが出来ますよね? 〗
〖 それが出来なければ『その場でサヨナラ』ですよ? 〗
〖 『奴隷』はいりませんからね 〗
ハンドくんの言葉に、慌てて口々に「守ります!」と約束してくれた。
〖 心配しなくても、言った相手には必ず『手痛いバツ』が落ちます 〗
落とすのはハンドくんか私だけどね。
『手加減不要の相手でしたら、遠慮なく『金ダライ』を落とさせてあげますからね』
ハンドくんがコッソリ、でもさくらが喜ぶ『あぶない発言』をする。
もちろんさくらは大喜びだ。
・・・・・・そして此処には『2人を止められるモノ』はいない。
一応創造神が『『物騒なこと』をさくらに許可しないでくれ』とチャットしたのだが『また『のぞき』ですか?』『ヒマですね』と返ってきた。
創造神が『『のぞき』じゃないというのに・・・』と呟いたが、『見守りたいなら『仕事』を終わらせてからにして下さい』とタイミングよく届いて、思わず周囲を見回したのだった。
次の町はエンテュースから馬車で5日。
さくらの軽自動車(ハンドくんが設定した街道の制限速度は40キロ)では『何もなければ』12時間の距離にある『ユリティア』。
この間に村は2つあったが、ハンドくんから『泊まる価値はありません』とバッサリ切り捨てられた。
確かに『賞罰欄』に『窃盗』『傷害』『強姦』『誘拐』『人身売買』『強盗』『殺人』『強盗殺人』などがオンパレード。
驚くことに幼子だって『窃盗』と『傷害』が付いていた。
『親が『日常』にしているから、子供たちは『それが当たり前』として育ったのでしょう』
『もとは『盗品市』だったようですね』
でも此処は『旅人』も泊まれるよね?
『金を持っていそうな『銅板』と『銀板』がターゲットでしょう』
『行商人は『目的地』があり『仲間』がいます』
『行方不明になれば探すでしょう』
『逆に旅人は『目的地がない』ことが殆どです』
『此処は特に『辺境地』ですから、余程のことがない限り『探してくれる仲間』もいません』
よかった〜。私には『ハンドくん』たちがいてくれて。
だって『いなくなったら探してくれる』でしょ?
『それ以前に『離れません』から』
『『探す』必要はありません』
へへへ〜。ハンドくんは『いつも一緒』だ〜。
そう喜んだら『いつも一緒です』と頭を撫でてくれた。
前にハンドくんのことをヨルクが『最凶最悪』とか『最恐最悪』って言ってたけど『その通り』かもしれない。
だってエンテュースの時みたいに『私に接触する前』にハンドくんが気付いてくれる。
私が気付く前に『片付いている』こともある。
きっと『悪いひと』にとって『ハンドくんの存在』は『コワイ』んだろうなー。
ハンドくんは『さくらの考えていること』が分かったが、何も言わなかった。
その代わり・・・
バッチーン!
「イッテー!」
「もう。・・・アレ?いまのって」
「ああ。『手袋』をしていたな」
「それも『右手』のハンドくんじゃったな」
「まったく。貴方という方は『懲りる』ということを知らないのですか」
「・・・・・・」
さくらと一緒にいるハズのハンドくんが『直接』殴りに来たということは・・・
「お前という奴は!さくらに何を教えてハンドくんを『怒らせた』んだ!!」
「イテーッて言ってんだろー!」
セルヴァンのゲンコツを脳天に落とされて、頭を押さえながら喚くヨルク。
しかし誰もヨルクを庇おうとはしない。
ただ『憐れみの視線』を送っていた。
『さくらに『ハンドくんのことは『最凶最悪』とか『最恐最悪』という』と教えました』
「アホか」
「セルヴァン様。ヨルクは『アホか』ではなく『アホ』なんです」
ハンドくんの言葉に呆れたセルヴァン。
その言葉にトドメを刺すように『断言』するヒナリと、その言葉に頷くドリトスとジタンだった。




