第31話
「よく、さくらをあの2人に預けたのう」
背の低いドリトスに背を叩かれたが、それに関しては自分自身が一番驚いている。
あの翼族2人、ヨルクとヒナリは生まれた頃から知っている。
特にヒナリは獣人国にある『マヌイトア』に住む、族長『エレアル』の娘だ。
『ヒナリ』とは『守るべき娘』と言う意味だ。
ヨルクはヒナリの『比翼』として、ヒナリと同日同時刻に生まれた。
翼族は、よほどのことがない限り『2人一組』で行動をする。
翼族が子供が好きで、共に空を飛んで遊ぶことは知られている。
ただ、大人たちからは『イタズラ好き』や『気まぐれ』な性格が災いして、『飛んでる途中で落とされるのではないか』と誤解を受けてしまっている。
翼族もそれを知っているから、子供以外には近付かない。
それは彼らも同じだ。
それなのに、ヨルクがさくらに興味を持ったらしく質問責めにしている。
「こんな所から見るより近くで見ようぜ」
「私もいます。族長様。よろしいでしょうか?」
珍しいことに、ヒナリまでさくらに興味を持っているようだ。
見上げてくるさくらの目が、戸惑いと緊張とワクワク感を含ませている。
「・・・何かあればすぐ戻れ」
少し屈んでヨルクにさくらを託す。
ヨルクは大事そうにさくらを抱きかかえてすぐ、何かに気付いたような表情を見せた。
「行ってくるね」
嬉しそうに手を振るさくら。
その様子にヨルクは口を噤む。
そして子供たちを相手にしてる時みたいにすぐに飛び出さず、背中の羽根を少し動かして浮いてみせた。
「大丈夫か?怖くねーか?」
さくらが頷くと、「なんかあれば言えよ」と言って屋上庭園から外へ出ていく。
「ヨルクにしては珍しく『紳士的』じゃのう」
ドリトスも驚きを隠さない。
それだけヨルクはさくらを気に入り、大切に思っているのだろう。
「さくらは彼らの『雛』になるやもしれんのう」
「『雛』に・・・ですか?」
「そうじゃ」
ドリトスは『雛』の存在を知っている。
一般的に雛は『守る相手』をさしている。
しかしドリトスのいう『雛』は違う。
『親鳥』を成長させる存在のことだ。
・・・現に彼らは、さくらを『特別な存在』としてみている。




