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第305話



5日ぶりに目を覚した警備隊隊長は、いつものように宿屋までヒナルクに会いに行った。



「なんだ。アンタ知らんかったのか」



宿屋併設の酒場にいつもいる男たちに何故か(あき)れられた。

宿屋のオーナーは何故か苦笑している。



「いったい何が・・・」


「旅に出たンだよ。自分が助けた獣人たち連れてな」


「あの子らの『家族』を探すためさ」


「いや・・・確かに彼女らは『あの事件の被害者』だが」


「こんな『端っこの町』で家族が見つかるのを待つより、自分たちで『探しに行きたい』んだろうな」


「しかし・・・」


「だからヒナルクは一緒に行ったんだよ」



そう。

ヒナルクが一緒に行くと知った(あん)ちゃんたちはヒナルクに話を聞いた。



『オレにはもう『家族』がいないからな』

『でもオレには『新しい家族』がいる』

『彼らはオレを信じて『必ず帰ってこい』と言ってくれた』

『だから『いつか』家族の待つ『家』に帰る』

『あの子たちにもきっと『帰りを待っている家族』がいる』

『だから・・・会わせてやりたいんだ』



ヒナルクは少し寂しそうに、家族を思い出したのか懐かしそうに、自分の話をしていたのが印象的だった。

だから・・・引き止めることは出来なかった。

「がんばれよ」と送り出すことしか出来なかった。



「ああ。そう言えば二度と『飲み逃げ』するなよ」



酒場の客に言われても隊長は『なんの話』をしているか分からなかったようだ。

そのためオーナーが酒代をヒナルクが肩代わりして支払った時のことを説明した。

途端に青くなった隊長は詰所まで戻り鑑定石に手を乗せる。

しかしヒナルクは『仕事代』として払ったということで隊長には罪状が付いていなかった。





宿屋のオーナーは『神殿から帰ってきた日』を思い出す。

あの日、昼前に宿屋へ戻った自分を『いつもの連中』が賑やかに出迎えた。



「『あのあと』ヒナルクには会ったか?」


「ああ。昨日な。神官長に呼ばれたついでに俺の顔を見に来たらしい」





「よお。『棺おけの中から生還』した気分はどうだ?」


「そいつを『やってのけた』張本人が何を言ってやがる」


「おおっと。『そいつ』はナシだぜ」

「オッチャンを助けたのは『神殿の連中』ってなってんだからな」



ヒナルクは屈託のない明るい笑顔をみせる。



「助けてくれてありがとな」



俺の言葉に目を丸くしてから「オッチャンらしくねー」と声をあげて笑い出す。

「おまえなぁ・・・」と呆れた俺に「オレだって『宿の看板(オッチャンの)娘』に『助けられた』んだぜ」と驚く言葉を言った。



「そんな話、俺は知らんぞ」


「そりゃあオッチャンが『死にかけ(ゾンビ一歩手前)』だったからな」


「おい。それはどういうことだ?」


「分からんか?『オレに違う部屋を貸した』ことを父親(オッチャン)にだけでも話していれば、オッチャンたちは『外へ逃げる』ことが出来たハズだ」

「今でも自分のせいで『父親(オッチャン)が死にかけた』って後悔してんだぜ」

「それを『オレの生命を助けたのは自分』なんて自慢出来るかよ」



確かに(ジーニ)が見舞いに来た時に『暗い顔』をしていた。

それは『俺の身体を心配』しているからだと思っていた。

だから「こんなのは大したことではない」と言ってやった。

・・・しかしヒナルクの言う通りなら、『そんな言葉』では安心出来ないだろう。



「娘を誉めてやれよ」

「彼女はオレの襲撃計画を『耳にした』だけだ」

「いつ襲撃するのか分からないのに、それでも帰ってきてオレを『別の部屋』へ移してくれたんだからな」



「賢い()だな」と娘を誉めるヒナルクに「『俺の子』だからな」と返すと「いや。『オッチャンの子』じゃなく『かーちゃんの子』だからだろ」と返ってきて一瞬驚いた。

しかし「オッチャンに似た子ならもっと『ガサツな子』になってるさ」と笑っていたところを見ると、他意はなさそうだ。



「バカ言え。アイツは『俺に似たから強い』んだ。きっと『今回のこと』も立ち直れるさ」


「ああ。『カレシ』でも出来りゃあ一発で立ち直れるな」


「お、おい・・・」



慌てる俺に「まだ『芽生えた』ばかりなんだ。親なら暖かく見守ってやるんだな」と含みをもたせた言葉を残して、ヒナルクは娘が俺の代わりに頑張っている宿へと帰って行った。

娘は他の宿を紹介しようとしたらしいが、「オレが安心して寝られるのは『この宿だけ』だ」と言ってそのまま『同じ部屋』で泊まっているらしい。

そのおかげで『宿屋のランク』が2ランク上がった。

『銀板が安心して泊まれる宿』と評価されたのだ。

そして掲げていた『木の看板』が、『銅の看板』を飛ばして『銀の看板』へと変わった。

今度から『中級ランクの宿屋』として『1泊・銀貨1枚』となる。


それでも『24時間営業の酒場』は続けるつもりだ。

客の彼らは俺と共にパーティーを組んでいた『元・冒険者』だ。



『ジーニは俺の子ではない』。

この町で『そのこと』を知っている者は少ない。

・・・ジーニは性犯罪の被害者となった妹の子だ。

妹は子を産んでそのまま衰弱死していた。


犯人たちは俺たちのパーティーに『対抗心』を持っていたパーティーだった。

他の町まで(長距離)の護衛依頼を、俺たちは引き受けた。

片道五ヶ月。往復十ヶ月。

帰ってきた時に『妹』は()らず、『妹の娘』だけがいた。

犯人たちも町を逃げ出した後だった。

・・・いまだに見つかってないところをみると、どこかの村や街道を狙う『旅人狩り』となってアジトに潜伏しているのだろう。



両親は共に『神殿の神官』だった。

そのために妊娠した妹の『堕胎』を認めず、神殿に閉じ込めて出産させたのだ。

その時に思い知った。

『親にとって子供(俺と妹)は『役に立たなかった』道具』でしかなかったことを。

俺と妹には、親が持つ『光魔法』が遺伝しなかったのだ。

そのため『妹の妊娠』を知り、『今度こそ』という思いがあったようだ。

しかし『生まれた(ジーニ)』も『光魔法』を持っていなかった。

そのために『役立たず(いらない子)』として俺に押し付けた。


両親・・・というより『神殿』は、『生まれつき光魔法を持った子』=『神子(みこ)』が欲しかったのだ。

そのため『青年期』の男女を『夫婦』にして俺たちを『作った』。

でも『成功』したことは一度もない。


ジーニを連れて町を出る決意をした時、パーティーの仲間たちも一緒についてきた。

流れ流れて辿り着いたのがこの町(エンテュース)だった。

俺らが泊まった宿屋の前オーナーが『町を離れるのを理由』に俺に宿を譲った。

・・・実際は『宿の客()の荷物』を盗もうとして失敗。

荷物に仕込んだ『罠』が発動して、ツタに身体中を雁字搦(がんじがら)めにされて気絶している所を俺たちに発見された。

言い訳も何も出来なかった。

警備隊に突き出さない代わりに、俺は宿屋を貰ったのだ。

もちろん『譲渡にかかる金』は前オーナーが支払った。

仲間たちも前オーナーから『多額の口止め料』を貰っていた。

そのため『酒場を(ねぐら)にした』のだ。


そして仲間たちに助けられて『銀馬亭』が始まったのだ。




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