第303話
それを『神殿の起こした奇跡』にすることで、私は『自由』を。神殿は『名声』を。それぞれ『手にできる』のだ。
その代わり、私から『条件』を出した。
その1。
獣人の少女3人の身柄を私が預かること。
彼女たちは『住んでいた村』が魔獣に蹂躙された。
その前に村に張られていた『危険予知』の魔法が発動したため、村人たちは逃げ出して無事だった。
彼女たちは逃げる途中で家族たちと逸れてしまったらしい。
とりあえず3人で街道まで出たところで、偶然馬車が通り過ぎた。
その馬車から出てきた男に「この町に『保護施設』がある」と言われてついてきた。
そして『保護施設』として連れて来られたのが『ジョルトの屋敷』だった。
そこで首輪をつけられて地下に閉じ込められ、『あの日』広場に引き出された。
残念ながら、村の名前など分かることはない。
ただ「何日も馬車に揺られて、いくつもの村を通ってきた」そうだ。
小さな2人が指を折りながら数えていたけど、途中で指が足りなくなったと言って足の指まで数えていたらしい。
・・・つまりそれほどの日数をかけたのか、村を通ってきたのかは分からないが、『遠くから来た』のは間違いない。
そのため『あてどのない旅』をしている私が連れて行くことで『手掛かり』を見つけることが出来るかも知れないのだ。
とりあえず3人に『ここに残る』か『一緒に旅をする』か聞いてみた。
3人は「「「行く!」」」と即答した。
そして、その2。
『宿屋の娘』に罪を問わないこと。
「・・・・・・『これ』は一体どういうことなのか説明して下さい」
父親である宿屋のオッチャンが神殿に運ばれてからそう聞いた。
彼女は買い物の途中で、男たちの『ヒナルク襲撃』の計画を聞いてしまった。
ただ、『いつ』『どこで』なのかは分からなかった。
一度買い物した荷物を置きに宿屋へ帰ると、『ヒナルクは部屋に帰っている』とのこと。
用心のためにヒナルクには『別の部屋』の鍵を渡して、自分は『残りの買い物』をするために外へ出た。
途中で最近宿で顔を合わせることが増えた『警備隊副隊長』に会って、ヒナルクがすでに襲撃を受けていたことを知った。
それで自分が聞いた話をして副隊長たちと共に戻った時には、宿屋は『襲撃を受けた後』だった。
・・・犯人たちに『心当たり』がある。
『アクセサリーショップ』だ。
そう考えると時間的に『ピッタリ』あう。
私の襲撃に失敗して『実行犯』は捕縛された。
そしてアクセサリーショップに捜索が入った。
その捜索から『何らかの理由』で逃れた者たちが、『荷物』か『私自身』か『その両方』か。
何かを狙って襲撃したが、私は『いなかった』ため逃げ出した。
部屋が『使われていない』と勘違いされた理由はハンドくんが『時間魔法』を使ったからだ。
出かける前に、室内に時間魔法を掛けて『部屋に入る前』の状態に『時間を戻している』。
私の髪も時間魔法で『寝ぐせができる前』に戻しているのだ。
あんなに親切にしてくれた人たちを『巻き込んでしまった』ことが申し訳なかった。
オッチャンの傷は塞がったが、体内から流れ出た血液は汚れてしまっているため戻すことは出来ない。
そのため、今は神殿で『保護』されて回復に努めている。
治癒魔法で『血液を少しずつ増やしている』らしい。
気を付けないと目眩や嘔吐などの症状が現れるからだ。
しかし、明日の午後には宿屋へ戻ることが出来るだろう。
「さて。行きますか」
「「「はい。ご主人様」」」
「それは止めなさいって・・・」
私の言葉に、成り行きで一緒に旅をすることになった獣人娘3人組が声を揃えて返事をする。
ジョルト宅の『家宅捜索』で、少女たちの『身分証』が見つかった。
その結果3人の話が『事実』だと裏付けも取れた。
そして『名前』も判明した。
『猫種の少女』の名前は『エスティラ』。
警備隊や神官たちは、自分のことを話す時に「『スゥ』はねー」って言っていたから『ス』が頭につく名前だと思ってたらしい。
そして『犬種の少女たち』は姉妹で、姉が『マルシェイナ』。妹が『シュピルナ』。
愛称は姉が『シーナ』。妹は『ルーナ』。
スゥ曰く「『シーちゃん』と『ルー』なの!」。
それほど慕われているのだから、妹と一緒に守ろうとしたのも分かる気がした神官たちだった。
私は鑑定魔法で『名前を知っていた』けど、『周りが知らない』ことを教える気はなかった。
それに『鑑定石』で名前は分かっていたはずなんだけど・・・
『個人情報だからでしょうね』
『彼女たちは『犯罪被害者』ですから』
『『出身地』は『書き換えられた』可能性もありますが『手掛かり』にはなるでしょう』
『『村が魔獣に襲われた』と言っていましたから『村がなくなっている』かもしれません』
『MAP』には『詳細』『市街地』『広範囲』があり、『行ったことのない町や村』でも検索可能だ。
『この大陸すべて』が見られるその『MAP』だが、彼女たちの村は検索しても見つからなかったのだ。
さくらのMAPには、先日『管理事務所』から貰ったリストに載っていた村がマッピングされている。
「美味しい果実の『お礼』をしなきゃ!」ということで『直接行きたい』のだ。
もちろんハンドくんは止めたりしない。
これは『さくらの冒険旅行』なのだ。
逆に『良い心がけです』と頭を撫でて誉めていた。
同じMAPを使うハンドくんは『自分用』なのをいい事にいくつかマッピングしている。
その中に先日襲撃してきた男たちが口にした『シューヴァイン』もマッピング済みだ。
ちなみにこの『マッピング』機能は個人相手にも可能だ。
そのため『襲撃者』もマッピング済みになっている。
さくらが襲撃された後、創造神がハンドくんにチャットで『何故『その場』で『倒さなかった』のか』を聞いた。
『相手は『組織』ですよ?』
『このまま放置していれば『アジト』まで戻るでしょう』
『『運』が良ければ、組織の手で『片付け』てもらえます』
『いくら数多くの『下っ端』を潰しても意味はありません』
『『頭』を押さえて完全に潰さないと『組織』はしぶとく生き残ります』
確かにハンドくんの言う通りだろう。
『組織の全貌』が分からない以上、『泳がせる』方が得策だろう。
そして『アジトにいる者たち』全員のマッピングをして『接触した相手』も『組織に与するもの』ならマッピングしていけば、何れ『全貌』に辿り着ける。
その間、さくらの身が『危険に晒される』ことになるが、それでもハンドくんたちなら『さくらを守り抜く』ことは可能だ。
ハンドくんが獣人の娘たちを『冒険旅行』に連れて行く理由に『見える護衛』となってもらうつもりもある。
もちろん『戦える』ということは、今後家族と会えた後も村の再建をするにしても『魔獣』を倒せる『強さ』があれば、余程のことがない限り『仲間を守れる』だろう。
それこそ村を守る職業である『守護者』になることや『警備隊』になることも出来る。
『獣人』ということで畏怖されやすいが、さくらと旅をして『守る側』に立つことで信用を得られることを教えていくつもりだ。
一度に3人が『守る側』として名を馳せれば、獣人を見る目も変わっていく。
それにさくらは『悪いことに立ち向かう』だろう。
そんなさくらと共にいて『良いこと』を繰り返せば名を馳せるだけでなく、早く『アリステイド大陸』の『転生の環』に戻れる。
ハンドくんは『その後』のことも考えて、少女たちに『戦うこと』を教えるつもりなのだ。
その『意図』を知り、神々は改めて『ハンドくんの賢さ』に感服した。




