第30話
王都外壁のさらに西。
何もない荒れ地に、コーティリーン国の飛空船が黒く焼け焦げて地に堕ちていた。
これだけの被害なのに乗員に死者はいない。
あれが『神の怒り』だった証明だ。
そして皆『天罰』を受けていた。
彼らは地面を転がり回り「火が消えない」と言っている。
さくら様の仰った、父レイソルたちの受けている『見えない荊』ではない。
「さくら様に見て頂けると、天罰の種類も分かるのでしょうが・・・」
先ほどの様子から、さくら様に見て頂くことは出来ない。
空を見上げるが、さくら様の姿はそこにはなかった。
「ジタン様」
騎士の一人が声をかけてきた。
父がジタンと同年代の貴族の子息を集めて『学友』としたうちの1人だ。
彼も、ヒナリやヨルクと遊んだことがある一人だ。
「ヨルクたちが、さくら様を王城へ無事にお連れ致しました」
「そうですか。・・・無事で良かった」
さくら様に最後にお会いしたのは2ヶ月以上も前。
密偵の騒動の時だ。
その後高熱で50日も寝込まれていたさくら様は、今なお長くはベッドから離れられないと聞く。
そんなさくら様が飛空船に興味を持たれていたのは、ドリトス様とセルヴァン様からお聞きして知っていた。
外には出られないけど王城から見たいと仰られていることを知り、屋上庭園から見て頂くことにした。
いずれは王室専用の飛空船にお乗せしたいと思っている。
国内の空を一周するだけでもいい。
望まれるなら、セルヴァン様のセリスロウ国でもドリトス様のヒアリム国でも、その両国にお連れしても構わない。
きっとさくら様は「どちらも行きたい!」と仰られるでしょう。
屋上庭園はガラス張りだから、翼族からはよく見える。
そこに偶然ヨルクたちがさくら様とお会いして、少しでも近くから見せようとしたのも『問題はない』だろう。
実際に飛空船からは、かなり離れた場所を飛んでいたのだから。
しかし・・・
3人は前触れもなく攻撃を受けた。
もし航路を妨害しているなら、警告音を鳴らし、それでも退かなければ『威嚇』もありえただろう。
しかしコーティリーン国の飛空船は、3人を狙って撃っていた。
「今すぐ神殿に人を送って下さい!」
これは『誰を狙った』のか、神々ならご存知でしょう。
そうでなくても、一時的に天罰を止めていただかなくては。
彼らをこの場に放置して、魔物の餌食にするわけにはいかない。
そしてコーティリーン国と交渉しなくては。
さくら様の仰られる通り、エルフ族が瘴気に弱いのなら、今は外交官を寄越すべきではない。
「ジタン様。もしこの者たちが翼族ではなく『さくら様を狙った』のでしたら、王城に攻撃が向けられていた可能性も御座います」
「なぜさくら様が狙われるのです?さくら様は『聖なる乙女』ではないのに」
「ですが『神の加護』を受けておられます。さくら様を手に入れられれば、自分も加護を受けられると思う輩は少なからず存在しております」
もし『神の加護』を受けたいなら、さくら様を攻撃するべきではない。
実際に父たちは『礼を欠いた』ために『天罰』を受けている。
『神の怒り』に触れたエルハイゼン国は、厚い雲に覆われて陽がささなくなって3ヶ月が過ぎた。
このままでは食物は実らない。
昨年が豊作だったため、国庫を開ければ今年は凌げる。
しかし、来年も『神の怒り』が続くようなら・・・
「ジタン様。今は『先のこと』より『目の前の問題』を一つずつ片付けましょう」
「・・・そうですね」
まずは出来ることから。
『さくら様を見習う』
そう決めたのだから。
それでもダメなら、さくら様に叱られましょう。
きっと、さくら様は厳しくても良案を授けて下さるでしょうから。




