第26話
さくらの熱はその後もゆっくりと下がり、平熱まで下がったのは寝込んでから50日をすぎた頃だった。
熱は下がっても、熱に奪われた体力は回復せず。
ひとりでは身体を起こすこともままならず。
その後も『ベッドの住人』となっていた。
久しぶりに一人で過ごす時間を、さくらはメニューからタブレット画面を起動して電子書籍を読んだり、スマホでアプリのゲームをしたりしていた。
毎日、ドリトスとセルヴァンが見舞いに来ては話をしてくれる。
しかし、まだ本調子とは言い難いさくらにムリはさせられないと、長居はしなかった。
「えー!エルフの外交官ってまだ決まってないの?」
『天罰騒動』の原因である外交官の後任がまだ決まっていないらしい。
あれから2ヶ月経っているんだけど・・・
「やっぱりアレか。瘴気にあてられて、隠してる『腹黒さ』を暴露したくないんだろーね。」
そう言ったら何故か2人は酷く驚いた。
あれ?
鉱石が瘴気を吸って『魔石』になるんだよね?
そして瘴気が強くなって『魔物』が生まれるんでしょ?
だったら瘴気で性格が『腹黒』になって、犯罪が増えてもおかしくないんじゃないの?
「だから、レイソルとか。マクニカとか。アストラムとか。『アグラマニュイ国の宰相一派』とかが湧いて出てるんでしょ?もとから『あんなの』だっていうなら、滅んでもかまわないけど」
「・・・よく『瘴気の影響』だってわかったな」
「こんだけ『おバカしかいない』世界だったら、神様が可哀想じゃん」
私の言葉に、2人は顔を見合わせて「確かに」って納得してた。
逆に私は不思議に思ってることがある。
「何で2人は変わらないの?」
最初から私に好意的だよね?
私が2人に『範囲浄化』を掛ける前から。
そう聞いたら、獣人族もドワーフ族も瘴気には強いらしい。
そういえば、ドリトスは『天罰騒動』でも強かったっけ。
ドワーフ族へ連絡したときも、特に問題なかったらしいし。
セルヴァンは『問題外』の理由だった。
「獣人族の自分を怖がらなかった」
それが嬉しかったらしい。
あ!そういえばお願いし忘れてた!
「女神様が獣人は『獣化』出来るって言ってた。『獣化』ってなあに?」
セルヴァンの今の姿は『人型』らしい。
そして、獣の姿になるのが『獣化』だそうだ。
「姿が2つあるの?!見てみた・・・ゴホッゴホゴホッ」
興奮しすぎて咽せてしまった。
心臓と肺の機能が著しく下がってるから『絶対安静』させられているのに・・・
そのまま過呼吸を引き起こして咳が止まらない。
胸が苦しくて押さえ込み、身体を丸くする。
シーツを握り締めた手が何かに触れて、思わずそれを握りしめる。
すぐドリトスに背中をさすられて、苦しかった呼吸が少しずつ落ち着いていった。
呼吸が落ち着くと、さくらはそのまま気を失うように眠っていた。
無意識にセルヴァンの手にしがみついて。
セルヴァンの大きな手から小さなさくらの手を外すと、握りしめていた痕がくっきりついていた。
今もまだ弱っている身体なのに。
どんなに苦しかったのだろうか。
「いくらでも獣化してやるから・・・だから早く元気になれ」
そう言って頭を撫でる。
ドリトスも背中をさする手を止めない。
『熱ぐらい大したことではない』
以前さくらが言った言葉。
その言葉の重みを改めて知った2人だった。




