第25話
2人に甘えて、セルヴァンにはひざまくらをしてもらって頭を撫でてもらい、ドリトスには手を握ってもらってる。
色々な話をしてから『あの後』の話をしてもらった。
隊長以外の密偵ご一同様は、帰国を拒んだらしい。
隊長はアグラマニュイ国の使者に引き渡されてから『行方不明』とのこと。
「あらら。口封じに消されちゃったか」
「人を殺せば『賞罰欄』に『殺人』がつくから・・・」
「じゃあ。『殺人』がついてる人が手を下したんだね」
私の指摘に言葉を詰まらせる2人。
だって賞罰欄に『殺人』はつくけど、『何人』ってつかないよね?
付いたらダークサイドで『自慢』しそうだし、それを目当てで『連続殺人』されては困るよね。
「動物さんだった『密偵ご一行様』は、ない頭をどう使って何て言って『解体』から逃れたの?」
今度は苦笑する2人。
『乙女はまだいない。だけど来たときに『アグラマニュイ国』にも訪問してもらえるように交渉する』と言ったらしい。
確かに『乙女』が召喚されていれば、エルハイゼン国国内は大幅に『浄化』されているはずだ。
しかし、エルハイゼン国はアグラマニュイ国と『瘴気の濃度』は変わらなかった。
そのため、使者たちは『乙女不在』という話を信じた。
『証明』はされたのだ。
逆に帰国を強く望んだ隊長は、『任務放棄』と見なされたんだねー。
だから『よく考えろ』って言ったのに・・・
「・・・さくら?」
「大丈夫じゃ。眠っておる」
さくらが甘えるように『おねだり』してきて、言われるがままひざまくらをしていた。
上向きだと呼吸が苦しいらしく、ハンドくんが背中にクッションを挟んで身体を斜めにしている。
いつものように頭を撫でてやると嬉しそうに、でも弱々しい笑顔を見せた。
やはりさくらの『おねだり』を聞いていたドリトスは、さくらの手を握って他愛のない話をしていた。
そのうち、アグラマニュイ国からの『招かれざる客』の話になった。
自分としてはしたくもなかった。
それはドリトスも同じだろう。
連中は『さくらを殺しにきた』と言っていたのだから。
しかし、さくらが的確に指摘をしたことで、連中は考えを改めた。
そしてこのエルハイゼン国の庇護を受ける事を望んだ。
さくらの言葉を受け入れなかった『隊長』は、アグラマニュイ国から来た使者たちと国境を渡り、自国へ戻った後で行方不明になった。
エルハイゼン国国内では使者たちの『護衛』という名の『見張り』がついていたから、国境を越えるまで隊長を手に掛けられなかったようだ。
またアグラマニュイ国の使者に紛れ込ませた、さくら曰わく『賞罰欄に殺人がついてる人』も、『護衛の前』では隊長を殺せなかったのだろう。
下手したら『王族を殺すために使者として送り込んだ』となりかねないのだ。
国境を越えるときは、どの国でも『鑑定石』で鑑定を受ける。
そして『賞罰欄』によっては入国が拒否される。
使者や外交官などは、特権として国境を越えるときの『鑑定』を受けない。
その使者として潜らせた者がエルハイゼン国国内で暗殺をすれば、アグラマニュイ国の立場がなくなる。
それこそ『宣戦布告』だ。
この国に残った連中の言うとおり『宰相一派』の犯行だとしても、国王や王太子も責任を負わされる。
「さくら様はすべて『先』を読まれて、『被害を最小限に抑えて』下さっていますね。自分も見習わなければいけません」
ジタンの言うとおり、さくらは何事も『先』を読む。
『天罰騒動』でも早い対応が功を奏して、各国でも負傷者は出たし、魔物や野生生物の暴走もあったが死者の報告はなく、ジタンの元には各国から謝辞が届いている。
そして今回の問題だ。
さくらの言うとおり『国境まで送る』ことで、エルハイゼン国は『最悪の事態』を回避することが出来た。
エルハイゼン国とアグラマニュイ国は特に問題があるわけではない。
さくらは、その二国を襲いかねない『争いの火種』を封じ、数多の生命を救うことになったことに気付いていないだろう。
「そろそろワシらは退室しようかの」
熱がまだ高いさくらのそばから離れたくはない。
しかし年長者に促されては退室するしかない。
さくらに清浄魔法を掛けると、身体がサッパリしたのか笑顔になった。
「また来るからの」
ドリトスはさくらの頭を撫でて寝室を出る。
その後をついてセルヴァンも寝室を出て行った。




