第239話
「「さくら!」」
ふとヨルクとヒナリに呼ばれた気がして、背後の空を振り仰ぐ。
そこには雲ひとつない青空が見下ろしているだけだった。
私は顔を元に戻して目の前の城壁に歩を進める。
乾いた大地に立つ『果ての地』。
鑑定魔法だと『エンテュース』という名の町だ。
ここからが私の『冒険の始まり』。
『神々のチカラ』も借りずに生きていくための『出発点』。
私はこの大陸では一般的な旅装をしてる。
ヨルクがくれた『翼族の羽衣』は、右肩から左腰に斜め掛けで縛ってある。
左腰にはアイテムボックス化したポーチを付けているため、万引きや引ったくり防止のため羽衣で隠してるのだ。
この大陸・・・というか『アリステイド大陸』以外には翼族はいないそうだ。
だから私が『翼族の羽衣』を身に付けていても特に問題はないらしい。
ちなみに『見た目』は茶髪茶眼の中性的な顔。
これはメニュー画面から弄ったので『見破り』の魔法でもバレない。
そして『口が悪いのは親譲り』だ。
これで『女顔の男』に見られるだろう。
城門で銀板の『身分証』を見せる。
名刺大の無地だが、中には情報が詰まってる。
銀板だと、どこかへ行って更新する必要がないらしい。
別に私の場合は、メニュー画面から更新すればいいので楽だが。
これはこの大陸で必要になるということで、事前に神が用意してくれたものだ。
・・・『餞別』ともいう。
銅板が『一般用』か『奴隷用』らしい。
これだと色々な制限があるらしく、町に立ち寄るたびに更新を強要させられては手数料を取られたり、滞在日数が最長で10〜20日とか、滞在の料金を払わせられたりするそうだ。
奴隷は『ご主人様』の身分証によって滞在日数が決まるらしい。
他には金板もあるが、こちらは『王族や貴族』とのこと。
そして『身分証』を持たない者は、毎回銀貨3枚を支払って『鑑定石』に手を乗せる。
賞罰によっては門前払いになる。
ワイロは?と思ったが、門番は勤務交代時に『鑑定石』で確認させられる。
ワイロを受け取ると賞罰欄に『収賄』が追加されて、家族と一緒に『犯罪奴隷』にされるらしい。
色々と厳しい仕事だけど、その分給金が高いそうだ。
「名前は?」
人の良さそうな門番が銀板を石の台に乗せながら聞く。
「『ヒナルク』です」
名前はヒナリとヨルクから付けた。
私は『2人の子供』だもん。
別にいいよね?
「入っていいよ」
「ありがとう。ついでにメシの美味い宿屋ってある?」
「それなら『銀馬亭』がいいだろう。前の道を真っ直ぐ行けばある。『門番のジグに紹介された』って言ってくれると助かる」
「ああ。分かったよ」
身分証を返してもらって、紹介された『銀馬亭』に向かうことにした。
門番から紹介されたと言えば、門番には『紹介料』が支払われるらしい。




