第233話
翼族の族長エレアルは娘のヒナリと一緒にいた。
ヒナリの横には仏頂面のヨルクもいる。
彼はこの場に『嫌々』来ているようだ。
その様子にエレアルは苦笑する。
「ヨルク。久しいな」
「別に。お互い『見たい。会いたい』と思い浮かべる顔でもあるまいし」
ヨルクは不服そうだ。
それは仕方がないだろう。
ハンドくんから『国璽』を返される時の『条件のひとつ』に『ジタンの戴冠式とその後のパーティーに『ヒナリのエスコート』で出ること』があったからだ。
さくらが何か『計画』をたてているようだ。
だから『さくらから離れたくなかった』のに。
そんな様子のヨルクにヒナリの弟は「だったら来なくても良かったじゃないか」と言うとヨルクにギロリと睨まれる。
慌てて謝ったがヨルクはニヤリと笑いロントの頭にヘッドロックをかける。
「だ・れ・の・せ・い・だ・よ!」
「ゴメン!ごめんなさい!」
「ヨルク。今はそこまでにしなさい」
エレアルの仲裁でヨルクはロントを離したが「覚えとけよ」と言い捨てるのは忘れなかった。
ヨルクは普段『飄々』としているが、それを甘く見ていると痛い目にあう。
ケンカも強いが魔法でも強いのだ。
『生活魔法』全般はもちろん、翼族が生まれつき使える『風魔法』も族長より強い。
そして全種族を通して使える者の少ない『光魔法』を取得している。
それは『目くらまし』から『姿くらまし』など身を守るため・・・『ヒナリを守るため』に覚えた魔法だった。
そんな彼らの様子をヒナリは呆れて見ていたが、ふと周りを見回す。
「ねえ。お父さん。『シリア』はどうしたの?」
「ン?そういえば・・・」
ロントの比翼がいない。
好奇心から周りを見て回っているのだろうか。
「ちょっと探してくるわ」
「オレも行くか?」
「ヨルクはお父さんたちと一緒にいて。ロントが問題起こすと困るから」
ヨルクも一緒に探そうとするのをヒナリは止める。
ヨルクがそのまま『神の館』へ戻るのを防ぐためだ。
ヒナリが人混みにまぎれて姿が見えなくなると、ロントがフラフラとヨルクたちから離れようとする。
「おい。ロント」
「別にいいだろ。シリアだって自由に歩き回ってるんだからさ」
ヨルクに掴まれて引き戻されると不貞腐れたように呟く。
その様子にまだ『次期族長としての自覚がない』ようでヨルクはエレアルの苦労が偲ばれた。
そんな彼らの近くを緑色の髪の少年が足早に通り過ぎる。
それを目にして、ロントが足を引っかけると少年は見事に転んでしまった。
「ざまあみろ」
すぐさまロントにゲンコツを落としたヨルクが「悪い!大丈夫か?」と少年を抱き起こす。
すぐに「ハハッ」と苦笑して少年を抱き上げる。
少年は「笑っちゃダメ〜」と言いながら涙目でヨルクの首に腕を回す。
「どこの子かな?」
「ドリトス様ンとこの『秘蔵っ子』だ」
「そうか。息子が失礼なことをした。申し訳ない」
エレアルが少年の頭を撫でて謝罪する。
ロントはヨルクのゲンコツが脳天を直撃したのかまだ蹲っていた。
「ジタンに『おめでとう』は言ったか?」
ヨルクの言葉に少年は首を左右に振った。




