第232話
時々立ち止まってはキョロキョロと周囲を見回し、また足早で歩き出す緑色の髪をした『人族』の少年。
身なりから『貴族の少年』と思われる。
貴族の父親にでもついて来てはぐれたのだろうか。
その様子を見ていた警備の兵士に気付いた少年が驚いて、また足早で逃げるように離れていく。
見つけた以上、放っておく訳にはいかない。
兵士は周りに気取られないよう注意しながら後をついて行く。
少年は『誰か』を見つけたのか駆け寄り抱きつく。
背後から抱きつかれた相手より、その周りが驚きの表情を見せるが、声は押し殺すことに成功した。
腰にしがみつかれたセルヴァンは一瞬驚いた表情をしたものの、震える手に気付いて少年の頭を撫でる。
そして近くに立っている兵士に気付いて目を向ける。
「失礼しました。何方かを探されていた様子でしたので、声をお掛けしようとしたのですが。逆に怖がらせてしまいました」
申し訳ございません。と頭を下げる兵士に「この子は『ドリトスの連れ』だ。何かあればドリトスに声をかけるように」と伝えると「ハッ。それでは失礼します」と兵士は下がって行った。
「父上。そちらの『人族の少年』は・・・」
ソルビトールの言葉を塞ぐようにセルヴァンは手を上げる。
セルヴァンの腰にはまだ怯えている少年がしがみついているのだ。
「父上。私たちは少し離れます。宜しいでしょうか?」
カトレイアの言葉にセルヴァンは黙って頷く。
カトレイアは少年に「御騒がせしました。御前より失礼させて頂きます」と挨拶をして、まだ渋るアムネリアを連れてセルヴァンたちから離れる。
他の弟妹たちはカトレイアに倣い、頭を下げて姉について行く。
その様子を涙目で見ていた少年は「迷惑かけてごめんなさい」と謝る。
「迷惑ではない。大丈夫だ」
セルヴァンは少年の頭を撫で続けていた。
「姉様。他のみんなも。何故あんな『人族の子なんか』に頭を下げたのです」
その『理由』にアムネリアだけ気付いていなかったようだ。
「アムネリア。貴女は何時になったら、『自分ひとりで物事を考えられる』ようになるの・・・?」
呆れたようにベロニアに言われて、顔を真っ赤にして反論しようとするが「此処で父上に恥をかかせるな」とシルバラートに言われると口を噤む。
そんな末妹を無視して離れた父を見る。
今もまだ抱きついている少年の頭を撫でながら何か話している。
その姿は決して自分たちに向けられることはない『穏やかな』ものだった。




