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第231話



パタパタ〜と人々の間を縫うように『人族の少年』が足早に歩く。

ここは『エルハイゼン国の王城』だ。

今日は『戴冠式』が行われ、少年が今いるのはその後に開かれているパーティー会場だった。

周囲の大人たちの胸ほどの高さしかない、緑色の髪を『襟足の長いショートカット』にした少年を気にするものは誰もいなかった。

少年は料理の乗ったテーブルに気付いて近付くと、ひと口サイズのサンドウィッチに手を伸ばした。

しかし、その手はサンドウィッチに届く前に1人の女性に掴まれてしまった。



「何をしているのです。此処は貴方みたいな子供が来ていい場所ではないのよ。ったく。兵士は警備に手を抜いてるの?これだから『人族』は。ほら来なさい。兵士に突き出してやるわ」


「やっ!離して!」


女性は手から離れようと暴れる少年を引きずって連れ出そうとする。

その小さな攻防戦に周りも気付き始めた。

その中から近付く声があった。


「すまんの。その子はワシの連れじゃよ」


人々の間から現れたのはドリトスだった。


「ああ。ドリトス様。お久しぶりですね」


「リンカスタ。挨拶は要らぬ。すまぬが、今すぐその手を離してもらえるかね?」


それともこの子が何かしたのかね?

ドリトスの言葉にリンカスタは左右に首を振る。

セルヴァンだけでなく、自分に懐かせたはずのアムネリアからも『他人行儀』の対応をされて不機嫌になっていたのだ。

そんな彼女は、ちょうど目についた少年を『八つ当たり』の材料にしようとして捕まえただけだ。



リンカスタは『ドリトスの怖さ』を知っている。

そのため仕方なく少年を掴んでいた手を離した。

その途端に少年はドリトスに駆けて行き、首に抱きついた。

ドリトスは抱きしめて少年を落ち着かせるように背を撫でる。


「よしよし。怖い思いをしたのう。大丈夫かね?」


ドリトスの言葉に涙を浮かべた少年は、ドリトスの首に腕を回したままコクンと頷く。

その言葉にリンカスタは青褪めた。



ドワーフ族は『同族同士』の繋がりが強い。

さらに他族でも誰かが『庇護』を決めた相手は『ドワーフ族全体』が全力で庇護をする。

この『少年』をドリトスは『連れ』と言った。

そのことを『証明』するように、この少年はドリトスを怖がることも無く、逆に甘えるように抱きついている。

それをドリトスは『当たり前』のように許しているのだ。



ドリトスは『(いか)りの沸点は高い』が、逆に『(おこ)らせたら最後』と言われている。

だからこそ、各地に点在する『ドワーフ族』の族長を束ねる『部族長』として選ばれた。

ドリトスは、それまで部族同士で張り合っていたドワーフ族をひとつに纏めあげ、国内外を繋ぐ『ドワーフ族専用ネットワーク』を確立させた。


そんなドリトスの『連れ』に手を出して泣かせたのだ。

それは『ドワーフ族全体を敵に回した』ともいえる。

鱗族の代表であるリンカスタが青褪めるのも無理はなかった。



ドリトスはリンカスタがまだ自分たちを見ているのに気付き、「早くそこを退()いてもらえるかね?」と『少年相手』とは違う冷気を帯びた声音で声をかける。

その目はやはり少年へ向ける慈しみとは違って、鋭く冷たい。


「・・・・・・・・・」


リンカスタは何も言えず、その場から黙って離れるしかなかった。




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