第230話
鼻をすする音が聞こえて、気付くとアムネリアが涙を流しながらケーキを頬張っていた。
どうしたのか聞くと手にしていた皿をテーブルに置く。
・・・皿はカラになっていた。
「私・・・さくら様に『嫉妬』してたの」
だって『私たちの父上』を奪ったから。
でもここに来たら、この国ではさくら様のこと悪くいう人はいない。
姉様も兄様も、この国に来てからは一度もさくら様のことを悪く言わない。
・・・私だけ取り残されて『ひとりぼっち』。
だから、ずっと『さくら様なんか!』って思ってた。
・・・なのに・・・。
「こんなに『優しいお菓子』が作れる人を、一方的に嫉妬してる自分が『みっともない』・・・」
アムネリアの『告白』に隣に座るシルバラートが頭をポンポンと軽く叩いて慰める。
自分たちと違い、アムネリアは母との思い出が少ない。
父との思い出など皆無に近いだろう。
だからこそリンカスタを親のように慕って甘えていた。
それすらも『リンカスタの立てた計画のひとつ』だった。
「それでもアムネリアさんには『姉兄』がそばにいらっしゃいます」
「さくらは『この世界』で本当に『ひとりぼっち』なのよ」
「だからこそ『誰よりも優しい』。そしてセルヴァンたちはその優しさに『救われた』んだ」
初めて会った時、さくらはセルヴァンや獣人族に『迷惑を掛けているのではないか』と気にしていた。
正直な話、ヨルクたちは「セルヴァン様やドリトス様が、付きっきりでお世話をしないとダメなくらい手が掛かるさくら様」という『ウワサ』を聞いて、面白がって来たのだ。
しかし『先入観を持たない』さくらの、『ありのままの姿を認めて受け入れる』ココロに触れて考えが変わった。
自分たちがさくらに惹かれてその場で『雛』に選んだように、セルヴァンたちも『守りたい存在』と認めたのだと。
ヨルクの言葉にヒナリとジタンは黙って頷く。
シルバラートたちもこの国に来て、人々が『自分本位』の考えを改めていることに驚いて理由を聞いた。
そして誰もが「さくら様のおかげ」と口にしていた。
さらに『さくら様の親衛隊』を名乗り、合言葉のように「さくら様のために」という兵士たちが王城の大半を占めていた。
そのうち何人かは『最上階に通じる中央階段』を24時間休みなく守っている。
ジタンに『兵士たちに何をさせているのか!』と問い質したが「彼らは『非番』なのです」と返ってきた。
信じられずに兵士たちに直接話を聞いたが、間違いなく彼らは『非番』だった。
彼らは『自主的』に警備しているだけという。
「我々には『与えられた任務』があります。『さくら様のため』だけに時間を使えるのは『非番』の時だけです」
兵士たちの言葉に驚いた。
しかし彼らは『楽しそう』だ。
それだけさくら様を慕っているのだろう。
「仕方がないから・・・・・・父上のこと。さくら様に『貸して』あげる」
アムネリアの言葉に、黙って聞いていた誰もが笑顔になった。




