第225話
珍しくヨルクとヒナリがジタンから「時間が取れましたので、久しぶりに『幼馴染み』としてゆっくり話でも」と私室へ呼ばれた。
ジタンは先日『聖なる乙女の披露パーティー』を成功させたばかりだ。
その功績はさくらの演出によるものが大きいが・・・
そのジタンも来月には自身が『主役』だ。
そして『戴冠式』が済めば国王となる。
ゆっくり出来るのは今くらいだろう。
さくらも行くか聞いてみたがタタミの上に広げている『ジグソーパズル』に夢中になっているせいか「行ってらっしゃ〜い」と手を振って快く送り出してくれた。
「『おみやげ』もヨロシク〜」とも言っていたが・・・
さくらの言う『おみやげ』は『お菓子』の事だ。
『菓子』ではなくジタンでも連れて帰ったらなんと言うだろうか?
たぶんさくらは喜ぶだろうが、ハンドくんのハリセンは避けられないだろう。
ジタンの私室は新しい王城・・・元の迎賓館の外観をそのままに間取りを変えただけの質素な建物にある。
そして隣の執務室にある奥の扉が『神の館』内の執務室に繋がっている。
そのためジタンの私室には『神の館の執務室』から『王城の執務室』を通って行く。
これは『さくらのため』でもあるが、王城にいるジタンが襲撃を受けた時の『避難』にも使える。
ちなみに『神の館の執務室』までは補佐官などの『許可された者』は入れる。
しかし『神の館の執務室』の扉から外へ・・・『神の館』内にはジタン以外は入れないのだ。
ヨルクはジタンの執務室にはよく顔を出すが、私室にはあまり近付かない。
ヨルク曰く『こーんなつり目の補佐官がいるだろーが』と『指で目をつりあげた顔』をジタンに見せた。
それは『先代補佐官』で、今は代替わりしている。
ヨルクはその『先代補佐官』に口喧しく「窓から出入りしないでください!」「部屋に入る時はドアをノックしてから!」などと叱られていたのを今でも覚えているらしい。
「おーい。ジタン。来てやったぞー」
ヨルクはジタンの部屋をノックもしないで開ける。
あれほど『先代補佐官』に叱られても変わらない態度に、当時のことを思い出していたジタンは苦笑する。
その後ろからヒナリも姿を見せた。
「ヨルク!」
「ヒナリ〜!」
「あー?ソルビトール・・・久しぶり。じゃねーな」
「カトレイア〜!」
ジタンの私室にはセルヴァンの子供たち5人も揃っていた。
ヨルクは声を掛けてきたソルビトールに気付いたが、先日の騒動で顔を合わせたばかりだ。
その横ではヒナリとカトレイアが抱き合って再会を喜んでいる。
男と女ではこれほど『温度差』があるようだ。
「『幼馴染みとしてゆっくり』ってこういうことかよ」
道理で、『ジタンの部屋へ遊びに行く』のにさくらが来なかったハズだ。
さくらはジタンの部屋に行くと、色々な『お菓子』を出してもらえるため楽しみにしているのだ。
悪いがシルバラートたちがいたら、さくらは怯えて部屋に入れなかっただろう。
『好意』ではなく『好奇心』で向けられる視線に、さくらは耐えられないのだ。
「私たちがジタン様にお願いしたの。『国に帰る前にヒナリとヨルクに『幼馴染み』として会いたい』って」
そう言ってカトレイアはヒナリを抱きしめる。
「私たち・・・2人に『謝りたいこと』があるの」




