第222話
頭から『もこもこ』に完全防寒したさくらは、コートだけ着用したヨルクやヒナリと一緒に庭へと出る。
空を見上げると、どんよりと曇った雲から真っ白な雪が降ってくる。
「あ~」
空に向かって口を開くさくらの鼻や頬に雪は付くが、口には入らない。
そんなさくらの様子をヨルクとヒナリは笑いながら見守っていた。
自分たちも小さい頃はよくやっていたのだ。
しかし『成功』したことは一度もなかった。
スッとハンドくんたちがさくらの顔を支える。
するとさくらの口に雪がひとひら入った。
その瞬間に目を丸くしたさくらは「やったー!」とピョンピョン飛び跳ねて大喜びする。
その様子に「どうした?」「何かあったのかね?」と部屋の中にいた3人も出てくる。
『『ひとひらの魔法』です』
『『叶えたい願い』を思い浮かべて、空から降る雪を口に含むことができると『願いが叶う』と言い伝えられています』
いまだ飛びはねて喜ぶさくらに代わり、ハンドくんが説明する。
「さくら。いったい何を『願った』のかね?」
ドリトスに聞かれて、さくらは寒さと成功した興奮で頬を染めながら嬉しそうに笑う。
「あのね。『此処にいるみんなが『ずーっと一緒』にいられますように』って!」
さくらの言葉に全員が目を丸くして驚いた。
そんな中でさくらはセルヴァンに向けて駆け寄る。
セルヴァンは蕩けそうな表情で膝を折って両手を広げると、さくらは「セルぅ」と飛び込む。
そんなさくらを抱きしめて抱え上げる。
さくらはセルヴァンの胸に顔を埋めて嬉しそうに笑って甘えていた。
そんな2人の周りをドリトスたちは囲む。
そこだけ空から『ひとすじの柔らかな光』が差し込んでいた。
その光景をたくさんの人々が目撃した。
会話は聞こえないが、結界内の様子を見ることが出来ていた。
『神の館』に感謝した神たちが、庭にいる彼らの様子を特別に見せたのだ。
その様子はセルヴァンの子供たちも見ていた。
父の嬉しそうな表情。
幼馴染みの優しい笑顔。
ドリトス様の慈しみの表情。
ジタン様の恥ずかしそうな笑顔。
そして膝をついた父に飛びつき胸に顔を埋めて甘えていた『さくら様』。
そんな『さくら様』の頭を撫でる『白い手袋』
5人は何も言えず、ただ『優しい光景』に涙を流していた。
そして願った。
「この時間がいつまでも続くように」と。
この光景を目撃した宮廷画家が描いた絵は、新しい王城の『謁見の間』に飾られることになった。




