第215話
ふわりとさくらのポンチョが暖かい風に靡く。
風の神々が廊下の温度を少し上げたようだ。
同時に窓ガラスが曇り、外の景色を隠してしまう。
「さくら。手が冷たくなるから触っちゃダメよ」
窓ガラスに伸ばした手をヒナリが握って止める。
「だ〜め〜?」
「『あとで』のお楽しみだ」
いつまでもここに居たら遊べないぞ。
ヨルクに言われてドリトスに床へおろされると「探検開始〜!」とさくらは進もうとしたが、「・・・どっち行くの?」とジタンを見る。
「どちらからでも」
「んー?」
ジタンに言われてまず東側を向く。
「あっちは『図書室』だよね。いっつも『人がいっぱい』で近付いたことないけど」
「じゃあ。そっちから見ていきましょ」
ヒナリに促され「じゃあ『図書室』へGO〜!」と号令を出してパタパタ〜と走り出す。
そんなさくらを「走ったらダメよ!転んじゃうわ!」とヒナリが慌てて追いかける。
それと同時にさくらは何かに躓いて前へ身体が倒れる。
しかしハンドくんたちが瞬時にさくらの身体を支えて事なきを得た。
すぐに追いついたヒナリも後ろからさくらを強く抱きしめる。
「もう!だから『走ったらダメ』って言ったでしょ!」
「うん。・・・ゴメン。ヒナリ」
ヒナリを心配させてしまったことに落ち込むさくら。
ヒナリは小刻みに震えていた。
『さくらが悪い訳ではありません』
そう言ったハンドくんは手に『四角柱のなにか』を持っている。
「ハンドくん。それなあに?」
ヒナリに後ろから抱き締められた状態でハンドくんに尋ねる。
『『ある国』の『大切なもの』ですよ』
「じゃあ返してあげないと」
『あとで返しておきます。もちろん『タダ』では返しません。『大切なもの』を落としても気付かないのですから』
さくらとハンドくんの会話に男性陣は表情が引き攣る。
ハンドくんが見つけたのは『国璽』と呼ばれる『国の印章』だ。
どんな『理不尽な内容』でも、この国璽を押されてしまえば『国王が許可を出した』ことになるのだ。
つまり、ハンドくんに『国家権力』を握られたようなものだ。
もしもハンドくんが【 国を明け渡せ 】と書いた紙にこの国璽を押してしまえば「はい。喜んで」と譲らなければならないのだ。
今まで毛足の長い絨毯に埋もれて、さくらが躓くまで誰にも見つからずにいたようだ。




