第211話
ハンドくんがジタンへの対応が軟化したのは、『さくらの魔石』を買い取るようになったからだ。
ただ、そのお金はハンドくんが管理している。
さくらに全額渡すとネットショップで何を買い出すか分からないからだ。
その代わり、タブレットで『買いたいもの』をチェックして、ハンドくんが『買ってもいい』と認めたものはその都度ハンドくんがお金を『チャージ』してくれて購入している。
ハンドくんは『買うこと』には反対しない。
ただ、さくらの場合は『目についた欲しいもの』を手当り次第に購入しようとするのだ。
『1個だけです』
「やー。せめて2個!」
『ダメです。『無くなってから』また買えばいいだけです』
「ケチー!」
『それでしたら『注文をキャンセル』しましょうか?』
「ダメ〜!」
『じゃあ1個でガマンしますか?』
「・・・・・・するぅ」
そんなやり取りが毎回繰り返されている。
それでもさくらは懲りずに何度も『多め』に購入しようとしてはハンドくんに止められているのだ。
実はさくらが本当に気に入った商品は、ハンドくんがこっそり購入して専用のアイテムボックスに保管してるのは、さくらには内緒だ。
そして、購入するとすぐにダンボールに入った状態で目の前に届けられる。
そしてタブレットに『受け取り』の画面が開く。
そこをタップすると『お買上げありがとう御座いました』と表示される。
はじめはそのことに驚いていた皆も、今では慣れてしまった。
ジタンも部屋への出入りをハンドくんに許されるようになって『さくらの部屋』に招かれるようになった。
はじめの頃はヨルク同様、様々な道具に驚いていた。
今ではネットショップの仕組みを教わり、種苗をいくつか購入して『この世界でも育てることが可能か』という研究を始めた。
その一部は『屋上庭園』にもある。
『瘴気が植物にどう影響するか』ということで、瘴気がなく清浄化されている屋上庭園でどのような影響があるのかを研究中なのだ。
・・・今のところ、さくらの世界から購入した植物は瘴気の影響を受けていない。
それどころか、瘴気が薄まったところもあるのだ。
以前、さくらがこの世界の説明を受けた時に、瘴気は聖なる乙女の呼吸で浄化されると聞いて『私らは光合成をする樹木か?』とツッコミを入れていたが、もしかするとそれは正しかったかも知れない。
この研究で植物が『瘴気の浄化』が出来ると分かれば、『聖なる乙女』を連れてくる頻度も少なくなるだろう。
しかしまだ、研究は始まったばかりだ。
実際にそうなるとは限らない。
それでも聖なる乙女の負担が軽くなればいい。
ジタンは本気でそう願っているのだった。




