第21話
「結局、僕だけ休憩出来ませんでした」
僕もさくら様の世界のものを食べたり飲んだりしたかったのに、とジタンが泣き言を漏らす。
そりゃあ、そうだろうねー。
「仕方がないだろう?「もう休憩を取るのか?」なんて言ったんだから」
セルヴァンの言葉に「うんうん」と頷く私とドリトス。
「もう休憩を取るのか?」と言うことは、「まだ休憩を取るほど疲れてない」って事だよね。
「自業自得。口は災いのもと」
「でも僕に対しての態度が酷すぎますよ」
さくら様、僕は彼らに叩かれるような事をしたのでしょうか?
「いや。『してない』な」
「僕は『何にもしてない』ですよね!」
「『してない』から問題なんじゃ」
「え?」
3人の会話、というよりジタンの会話だけがかみ合っていない。
私は、休憩後もセルヴァンに抱えられて王城内探検中なんだけど・・・
周囲の気配がピリピリしてて怖い。
ジタンの警備かなー?
でもジタンがハンドくんたちに叩き回されてても出てこないし。
「さくら。どうした?」
「・・・え?」
セルヴァンに声をかけられて顔を上げる。
心配している顔のセルヴァンに驚いていると、セルヴァンの大きな手が私の左手を覆う。
「・・・・・・アレ?」
「・・・気付いてなかったのか?」
気付かずに、セルヴァンの胸元のモフモフにしがみついていたわ。
それも小刻みに震えてる。
「さくら様?」
ジタンは何も感じないらしい。
やはりジタンの警備かと思ったけど、ドリトスは何も言わないが周囲を警戒しているんだよね。
・・・ヘン。
何がどうとか具体的なことは言えないけど、やっぱりヘンだ!
『下手の考え休むに似たり』『考えるより動け』だ!
「もうヤダ!ガマン出来ない!ハンドくん!連中を叩きのめして引き摺り出しちゃって!」
私の声と同時に、アチラコチラでもの凄い音が響きだした。
ジタンはその音に「何なんですか」「何が起きてるのですか」って驚いている。
ドリトスとセルヴァンは冷静に状況を把握しているのか、「ワシらは応接室で待ってようかのう」などと話していた。
応接室に移動した私たちは、ソファでくつろいでいる。
私は長ソファで上半身を横にして、クッションを抱きかかえて『ぐでぐで』中。
ついでに魔石も精製中。
私と長円型のテーブルを挟んでいるジタンは、ソファに座ってるのに緊張したまま。
外から『ドッタンバッタン』って、暴れてる音が聞こえているからかもしれない。
離れて話し合ってたドリトスとセルヴァンは時々こちらを見てたけど、何やら結論がついたようで戻ってきた。
セルヴァンは私の所へ来て、私の上半身を起こして座った。
そして私を元に戻したから、現在は『ひざまくら』状態。
『頭ナデナデ』のオプション付き。
「少しは落ち着いたかのう?」
ドリトスに頷いて身体を起こそうとしたら、セルヴァンに引き戻された。
そしてそのまま肩に左手を置かれて上半身はホールド。
右手は変わらずナデナデ続行中。
「セ~ル~」と恨めしく見上げても、笑顔でスルーされてるし。
ドリトスから「そのままで良い良い」と言われて私も諦める。
「さてジタン」
ドリトスが、いつも私に向ける好々爺の表情から厳しい表情に切り替えてジタンを見る。
「お主はさくら殿に『無償で魔石を譲って頂いたお礼』は伝えたか?」
「え?あ!」
ジタンは慌てて立ち上がり「大変失礼致しました」と頭を下げる。
「さくら様には『乙女の魔石』をお譲り頂いたのに、ひと言もお礼もせず申し訳御座いませんでした。お許し下さい」
「どうする?さくら」
ハンドくんたちが時々出てきては、ハリセンでジタンを叩いていたのは『ご主人様に魔石のお礼を言わんかい!』っていう意思表示だったんだ。
で、2人はそれに気付いていて黙ってた。
ジタンの『自主性』を慮ってのことだろう。
現在、絶賛天罰続行中の父親たちとは違い、ジタンはちゃんと指摘を受け入れられるようだ。
「たとえ王族だろうと『してもらって当然』なんてないんだよ?ちゃんと『礼』を返さないとね」
『聖なる乙女』が元の世界からこの世界に連れ攫われてきて、この世界を浄化するのが『当たり前』って思ってない?
彼女たちは『家族や大切な人たち』から引き離されて、見知らぬ世界にひとり放り出されたんだよ?
『昔の人』は『自分たちの世界の浄化のために申し訳ない』と思って、丁重にお世話したり『元の世界に似せた住居』や料理、食材とか心を砕いたんじゃないの?
この世界の味が私の世界の味に近いのも、それが理由なんじゃないの?
そこまで言ったら、3人とも驚きの表情で固まった。
セルヴァンもナデナデの手が止まってるよ。
「自分が『乙女と同じ』ように、ひとりで『ここではないどこか』に放り出されたら?」
・・・そんなこと、考えたこともなかったの?
「私たちは『選ばれてうれしい』とも『光栄だ』とも思わない。『今すぐ家に帰して!』としか思えないよ」
ねぇ。
この世界の人たちは、『先代の乙女』に『受けた礼と同等かそれ以上の礼を返した』の?
誰も何も言わず、顔を俯かせているだけだった。
この世界は『日本語の解読』は出来るらしいから、『沖縄戦』の悲劇を綴った本や写真集を謹んで進呈させていただこう。
部屋の外でもの凄い音が響いて、重たい『何か』が近付いて来た。
『鑑定』で、ハンドくんたちが一網打尽にした連中を引き摺っているのが分かった。
3人が身構えたから「ハンドくんたちだよー」と教えたらすぐに緊張を解いた。
「言ったとおり『引き摺って』連れてきたみたい」
「なんと!」
「お利口さんでしょ?」
神々にも人気があるんだから。
ドアがノックされて「はーい」と返すと、ハンドくんたちがフルボッコにしてひとまとめに縛り付けた連中を壁側に投げ込んだ。
「うっわー。なにコイツら」
『鑑定』では『アグラマニュイ国』『密偵』とのこと。
えー。
『密偵』なのに、あんなに気配をピリピリ出してたの?
「すぐにどこの手のものか「アグラマニュイ国の密偵だよ」・・・ええ!」
ジタンの驚きはスルー。
っていうか「そこのハンドくん。狙わなくて良いから」と言ったら、ジタンが頭を押さえてその場から逃げた。
その場にいるハンドくん全員がジタンを指差したから、「ドリトスに言われてお礼言ったよ」と教えたら、持ってたハリセンをしまってくれた。
20人はいるハンドくんたちに『ハリセン攻撃』されたら凄いことになってたよね。
・・・・・・見てみたかったけど。
「ざっと見たけど、『今すぐ死ぬ』とか『放っとけば死ぬ』って人はいないよ」
もちろん骨折とかあるけど。
それは『仕方がない』し『この程度で済んで良かったね』だけど。
そう言ったら、なぜか青くなる密偵ご一同様。
え?『生きて故郷の土が踏める』なんて思ってたの?
本気?
アタマ大丈夫?
頭と胴体が『バイバイ』して、頭だけが『国に帰る』って・・・「そこまでしませんから!」
密偵相手に面白がってたらジタンに止められた。
「・・・しないのー?」って残念そうに言ったら「しません!」と断言されちゃったよ。
「ツマンナーイ」と言いながら目の前の密偵の胸をツンツンしたら、脂汗流して苦しみだした。
ジタンには「何を・・・!」って言われたけど。
「あっれー?ここの骨がパキパキポッキン折れてたのかな~」
ゴメンねーと言った後「知ってたけど」って小声で言ったら白目になっちゃった。
『隊長』って、『密偵のリーダー』であって『集団登校の班長さん』じゃないんだよね?
この程度で気を失っちゃうなんて、弱すぎじゃない?




