第205話
それからは必死だった。
時間ができると過去の記録を読んでいた。
そして改めて父の手腕の凄さに驚いた。
『当事者』やそれによって実質的な被害を被った者だけでなく、数に上がらないその周囲の些細な被害者にまで気を配っている。
そして『施設の整備』などにも気を配っていた。
それは『母のこと』があるからかと思い、軽い気持ちで過去まで遡って調べていき・・・
あの施設が『事故』の半年前に新築されたばかりだったことを知った。
『事故』の前に魔獣に襲われて壊滅した村がいくつもあり、あの施設はその『被害者』たちが身を寄せ合って生活していたのだ。
当時、自分の補佐だったカトレイアにその話をした。
カトレイアは驚いていたが「そう・・・『知ってしまった』のね」と悲しそうな表情を見せた。
そんな顔は母を亡くしてから一度も見たことはなかった。
だから「すべてを知る『覚悟』はあるの?」と聞かれてすぐに頷いた。
『姉が背負うもの』を自分にも分けてほしくて。
そしてカトレイア自身が自ら『現場』まで赴き、見聞きして調べてきたことを纏めあげた書類を見せてもらった。
あの頃。『魔獣に襲われ滅ぼされた村』が余りにも増えていた。
その半数近くが『生存者のいない村』だった。
しかし『その内容』に絶句してしまった。
「・・・コレって・・・」
「ええ。だから言ったでしょ?『覚悟はあるのか?』って」
・・・こんなこと口にすることはできない。
しかし父は『そのこと』を知っているのだろうか。
そんなことを考えていたら顔に出ていたのだろう。
自分の表情を読んだ姉は大きく息を吐く。
「父上ならここに書いてある内容全てご存知だったわ」
「・・・何時から?」
「『始め』から」
もう何も言えなかった。
父も姉もこのような『重い事実』を抱えていたのか。
「なに怖い顔してるのよ」
ベロニアに声をかけられて、『考えごとの海』から引きずり戻された。
もうすぐ『執務室』の前だ。
「みんなに『話したい』ことがある」
弟妹も既に成人を迎えている。
父に守られて『何も知らずにいられた幼い子供』ではない。
父に『信頼』されるには、いつまでも『子供』でいてはいけない。
自分たちはもう『国の代表』なのだから。
・・・たとえ『ツラい真実』を突きつけられたとしても。




