第199話
決してボルゴたちが弱い訳ではない。
ボルゴは獣人族の中でもセルヴァンの次に強いのだ。
そのため身の丈に合わない野望を持ち、セルヴァンを弑逆しようとした。
ただし、それは『セルヴァンの怒気で気絶する』という不名誉な結果を齎した。
そして先程の牢屋での鉄格子越しでの再会。
セルヴァンに憐れみに似た目を向けられたボルゴ。
いつも自分より優位に立ち、自分より先を行くセルヴァンにボルゴは長年ひた隠しにしてきた『真実』をぶつけることにした。
「セルヴァン。キサマの女房は事故で死んだんじゃない。『お・れ・さ・ま・が!殺した』んだ!!」
ボルゴの『告白』にヨルクとジタンは慌てる。
しかしセルヴァンは冷ややかにただひと言「知ってる」と言っただけだった。
その言葉に逆にボルゴの方が驚いた。
「ウソを吐くな!」
「嘘ではない」
そう。王城を襲って自分の前に現れたボルゴ。
そのボルゴの身体から漂った夥しい血の臭い。
その中から微かに漂った『妻の香り』。
それは『犬種』であるセルヴァンだからこそ。
『夫』だからこそ『妻の香り』を嗅ぎ取ることが出来た。
その瞬間。セルヴァンは自己を見失い、最大級の『怒気』を放ちボルゴを気絶させていた。
王城内ではセルヴァンの怒気で目を回したり立っていられなくなった者たちで溢れた。
セルヴァンは自分がどうやって冷静を取り戻したのか覚えていない。
ただ、目の前で倒れている男を手にかけることはしなかった。
『手を下す価値はない』
そう判断したのだ。
セルヴァンは『母を事故で亡くした』子供たちに言っていないことが『ひとつだけ』ある。
・・・彼らは母と共に『妹』も亡くしたのだ。
この世で産声をあげることも叶わず、母と共に消えた生命。
だからといって『さくら』を『亡くした娘』のかわりにする気はない。
『さくらはさくら』なのだ。
『ボルゴの反乱』から感情を失くした自分に『笑顔と歓び』を取り戻してくれたのは『さくら』なのだ。
初めて出会った『あの日』からセルヴァンにとってさくらは『かけがえのない女神』なのだ。
ボルゴと彼の仲間たちは捕らえられてセリスロウ国を永久追放された。
それまでの『功績』から減刑されたのだ。
彼らは間違いなく国内に現れる『魔獣や魔物の討伐』でチカラの弱い獣人族たちから感謝されてきたのだ。
それが『持て余したチカラ』を発散するためだったとしても、だ。




