第194話
「帰る前にヨルクやヒナリに『幼馴染み』として会いたいな」
ソルビトールは天井を見上げる。
その先にいるであろう幼馴染みに聞こえるように。
彼は昨日会えなかったヨルクに会いたくて行ったのだ。
彼の兄弟たちも同じだ。
ただ『幼馴染みの2人と会って色々と積もる話をしたかった』だけだ。
他の大人たちとは違い『さくら様』が目当てではない。
だから階段を守っていた親衛隊に『どうしたらヨルクたちに会えるか』と聞きたかった。
しかし騒ぎが起き、『最悪なカタチ』で幼馴染みと再会してしまった。
ヨルクには誤解されたかもしれない。
自分とカトレイアは数日後に帰国する。
次に会えるとしたら来月にこの国で執り行われる戴冠式だ。
その前に『誤解』だけは解いておきたい。
きっとヨルクは戴冠式に出ないだろう。
そしてさくら様も。
ヒナリを通してヨルクに連絡が取れたとしても、ヨルクはさくら様を一人にして出てくる事はないだろう。
さくら様には父やヨルクがご迷惑をおかけしていないか聞いてみたい。
でも昨夜見た父の様子ではさくら様をとても大切にされていた。
屋上庭園からの逆光で姿は影だったが、さくら様から父に手を伸ばしたのは分かった。
それはさくら様が父を信用し慕っているからだろう。
隣にいたドリトス様も父と同じく穏やかな笑顔を見せていた。
そんな様子をヨルクとヒナリはやはり笑顔で見守っていたのだ。
「さくら様には『これからも父上やヒナリたちのことをお願いします』ってお伝えしたいわ」
カトレイアも同じことを考えていたのだろう。
父はさくら様の前では『鬼族長』の姿を見せていないのだろう。
シルバラートたちからは『さくら様の話をヒナリとしただけで父上の怒気がほぼ消えた』と聞いている。
「ねえ。ジタン様に話を聞いてみない?」
『だれの?』とは聞かない。
父や幼馴染みの話に『さくら様の話』が少しでも入ればいいと思っている。
ジタンならさくら様とお会いしているのだから『どのような御方』かをご存知だろう。




