第185話
笛に似た音が空に向かって聞こえた直後、空に光の花がいくつも咲いた。
少し離れた場所にいる乙女たちの口から『花火』という単語が聞こえてきた。
さくらの世界にそんな言葉がある。
・・・ということは『コレ』はさくらの仕業だろう。
「まったく。『花吹雪』といい『花火』といい・・・」
両腕を組み空を見上げる父の言葉に「これはさくら様が?」「あの『ピンクの花』も?」と彼に、ある者はしがみつき、ある者は身を隠し、ある者は耳を塞いでしゃがみ込んだ状態で口々に尋ねる。
その様子はとても『鬼族長』の血を引く子供たちとは言い難い。
そのとき会場の端から空へ浮かび上がるヒナリの姿が見えた。
その先にはヨルクがいる。
ヨルクがいるということは・・・
「やはりいたか」
「え?ヨルクのことですか?」
「そういえば来ていませんでしたね」
「ヨルクは『堅苦しい場』が嫌いだからなー」
子供たちにはヒナリとヨルクの姿しか見えていないのだろう。
しかし、もう1人。
腕や足が影だがわずかに見えている。
「俺は戻る。お前らは周りに迷惑掛けるなよ」
「え!父上!?」
セルヴァンは足早に、王城へ戻る人影を追いかけた。
懐かしい連中と簡単な『近況報告』をしていると空に向かって音が響き、夜空に『花火』が広がった。
ドリトスは花火をさくらの『写真集』でみた事があった。
「ああ。さくらも『参加』しておるのう」
「これはさくら殿の魔法か!」
ドリトスの言葉にドワーフの仲間たちが驚く。
会場の花吹雪もさくらの魔法だったと知るとさらに驚きの声が増した。
屋上庭園近くの空にヨルクの姿を見つけた。
花火のせいか側の屋上庭園から漏れる光のせいなのか。
影になっているが、さくらも一緒のようだ。
そんな2人に近付いていくのはヒナリだろう。
・・・ヒナリはドレスを着ていたはずだが。
人々の目は王城とは反対の夜空、花火に集中しているが、早く屋上庭園に入れた方がよいだろう。
ドリトスは仲間たちに暇を告げて王城へと戻っていった。




