第184話
ヒュルルルル ~
ドーン!
突然響いた大きな音に慌てたものの、夜空に広がった光の『大輪の花』に誰もが目を奪われ言葉を失う。
何発もあがる『光の花』に心まで奪われていった。
さくらはヨルクにお姫様だっこで抱えられて、賑やかなパーティー会場の空を浮かんでいた。
「ハンドくんがね。私たちの分を厨房から『持ってきてくれる』んだって」
ヨルクは思わず心の中で『『盗って』の間違いだろ』とツッコミを入れたが口にすることはなかった。
「天花」
さくらの言葉を待っていたかのように大きな音が響いて、濃紺の空にいくつもの『光の花』が開いていく。
「ちょっとヨルク!何やってるの!」
さくらと『天花見物』を楽しんでいたが、2人の姿に気付いたヒナリが飛んできた。
ヒナリの髪を飾っているのは、先日さくらが出会った青年がヒナリのために作った『珊瑚と真珠で出来た髪飾り』だった。
短時間で製作する羽目になった青年だったが、デザイン案は以前から出来ており、3日後にはジタンのもとへ届けられた。
あまりにも素晴らしい出来栄えに、ジタンはその場で彼のスポンサーになる約束をした。
「ヒナリ。きれい」
「ありがとー。さくら」
さくらに誉められて喜んだヒナリはさくらを抱きしめる。
「衣装がな」とボソリと呟いたヨルクにキッと睨みつけるが、今はさくらを抱えているためヨルクにキックやパンチをあてて『さくらに何か』あっては困る。
その間も次々に打ち上げられる『天花』。
それを見上げたヒナリはさくらに「これは『さくらの魔法』?」と尋ねる。
「うん。『お空に咲く花』だから『天花』って名前を付けたの」
「きれいね」
「うん!」
3人でしばらく天花見物をしていたが、ドリトスとセルヴァンの姿を屋上庭園に見つけて戻っていった。
そして今度は5人で『天花見物』をしつつ、ハンドくんたちが厨房から『貰ってきた』料理を楽しんだ。
あの、風を切る『独特の音』が周囲に響いた。
光の線が空に向かっていき、色鮮やかな『大輪の花』を咲かせる。
「・・・花火?」
「この世界にもあるの?」
でも周りの様子から、この世界の人たちは花火の存在を知らないようだ。
乙女たちは顔を見合わせる。
「まったく!ヨルクったら!」
花火の音に紛れて女性の声が聞こえた。
乙女たちがそちらに目を向けると、翼を広げた女性が空へと飛んで行くのが見えた。
その姿を目で追うと、同じく翼を広げた男性が浮かび上がっていた。
「あ!あの人って『さくらさんの部屋』にいた・・・」
「『ヒト』じゃなかったの?」
『彼』は大切そうに誰かを抱きかかえている。
さっきの女性は彼の前で『腕の中の誰か』に笑顔を向けていた。
姿は確認出来なかったし、腕など見える部分も屋上庭園からの逆光と花火の影響で影になっているが、彼女が『さくらさん』なのだろう。
3人は暫し花火を楽しんでから、最上階へと向かっていった。
開いていた窓が閉められると金色の光に覆われて、最上階は見えなくなってしまった。
彼らを出迎えていたのは『あの時』自分たちの存在を拒絶した人たちだ。
あれほど大切に接している姿を見て、改めて自分たちがどれほど『非常識な言動をしていた』のかを思い知らされた。
そして今日の『自分たちの会』に列席してくれたことに感謝すると共に、自身は参加しないでステキな『演出』をして場を盛り上げてくれた『さくらさん』に2人の乙女は自然と頭を深く下げていた。




