第181話
セルヴァンたちは数日前から『上を下への大騒ぎ』だった。
さくらの強い勧めもあり、国賓として招かれた家族と急に会うことが決まった彼らは、その準備があったからだ。
そして当日。
ハンドくんたちに文字通り『手』を借りて大童になっている。
そんな中で『ジャマになるから』と屋上庭園に移動したさくらを追ってきたヨルクが、巨木の枝にさくらを連れていき膝だっこをして過ごしている。
「ヨルク・・・」
「ンー?」
「ヨルクは『準備』しなくて良いの?」
「オレには会いに来る『家族』がいないからな」
「『族長』さんは?」
「ただの『後見人』だ」
「会わなくて良いの?」
会える時に会ってた方が良いよ?と言いながら、それでも寂しそうな瞳で見上げるさくらを抱きしめて頭を撫でる。
さくらはどんなに望んでも、家族や親しい人たちに二度と会うことは出来ない。
・・・オレと『同じ』だ。
「族長は『ヒナリの家族』だ。オレの家族じゃない」
オレの言葉にさくらは俯く。
そしてオレの背に腕を回し、抱きしめて「私たちがヨルクの『家族』だよ」と小さく震えた声で言った。
「家族?」
「うん」
「さくらは『オレの家族』か?」
「うん」
「オレたちは『さくらの家族』か?」
「うん」
さくらを強く抱きしめる。
たぶんオレの顔はヒナリが呆れるほどニヤケているだろう。
そしてそれと同じくらいに『泣きそうな顔』をしているだろう。
・・・そんな『みっともない』顔をさくらに見せたくなかった。
先日、さくらの外出騒動でジタンの部屋に行った時には、すでにさくらは来ていたそうだ。
「何が起きたか分かりませんでした。そのためヨルクにさくら様がいることを伝えて良いのか分からず。申し訳御座いませんでした」と謝罪された。
ハンドくんがさくらのそばにいたが、ハンドくんはジタンに何も教えなかったらしい。
ただ、さくらが「ヒナリが『いらない』って」と泣きじゃくっていたと聞いた。
そのため、オレに何も言えなかったのだ。
ヒナリは「もう『知らない』!」と言ったのだ。
聞き間違えたのかそう受け取ったのか。
どちらにしても『意味は同じ』だ。
さくらが「いらない」と言われたと受け取ってジタンに言った可能性もある。
だから、その後に来たセルヴァンにも『さくらのこと』は話さなかった。
ただドリトスにはひと目でバレたらしいが、「落ち着いたら帰っておいで」と言われただけだった。
実はさくらは、今でもヒナリと2人になるのを怖がっている。
まだ『言われたショック』が心に残っているのだろう。
そしてヒナリも。
さくらを傷付けた時のショックが残っているため、以前より会話が減っている。
まるで『腫れ物に触るよう』に接しているのだ。
そんなヒナリの気持ちを感じ取って、さくらは怯えているのかも知れなかった。
「今頃ヒナリたちは『聖なる乙女のお披露目会』に出てるのかな〜?」
さくらがヨルクに膝だっこをされながら呟く。
そんなさくらを抱きしめて「たぶんな」とヨルクが言うと、「やりたいことあるんだけど、イイ?」と見上げてくる。
「何をしたいんだ?」
「えーっとぉ」
大樹の枝から地上に降りたさくらは、『風の女神』にココロで呼びかける。
そして「この世界には『お花の神様』はいるの?」と尋ねると「えぇ。いるわよ」と返事をもらって笑顔になる。
「2人に『お願い』があるの」とお願いすると「呼んでくるからちょっと待ってて」とエアリィが花の女神を呼びに行った。
ヨルクはそんなさくらを芝生の上で膝だっこをして見ていた。
さくらの様子から『神と会話中』だというのは分かった。
風の女神と花の女神がさくらに呼ばれて揃って姿を現す。
「あのね。手伝ってほしいことがあるの」




