第178話
温室に向かうために、ハンドくんが廊下や温室の周辺に『結界』と『人避け』の魔法を張ってくれた。
その中をさくらはドリトスに抱かれて移動している。
姿は少年のままだ。
結界内だから誰かに見られる可能性は少ないが、『もしも』の可能性が乙女たちにはある。
ヨルクがさくらを心配して『神の結界を無効化した』実績もあるのだ。
『心配』と『執着』は『紙一重』だ。
・・・今のヒナリのように。
温室に着くと、さくらは『元の姿』に戻った。
それでもドリトスの首に抱きついたまま離れようとしない。
「さくら」と呼びかけると、離されると勘違いしたのかさらにしがみつく。
そんな様子にドリトスは苦笑する。
「ハンドくんが『何か飲みますか?』と聞いておるぞ」と伝えると「甘いのがいい」と答える。
そんなさくらの腰にハンドくんたちが『翼族の羽衣』を巻いている。
此処も屋上庭園にも、さくらが日射病で倒れてから『陽射し避け』の魔法が張られている。
それでもハンドくんたちは『完全ではない』として、さくらの腰に羽衣を巻いているのだ。
では『今朝』はどうだったのか。
ハンドくんの話だと『神が雲で遮った』らしい。
確かに『翼族の羽衣』を人族は使わない。
翼族にとって『翼族の羽衣』は親から贈られる大切なものだからだ。
そんな羽衣をさくらが身に着けて町に出ていたら、『羽根をしまった翼族』か『翼族から羽衣を盗んだ』と間違えられて、最悪捕まる可能性すらある。
・・・その前にハンドくんたちが『大暴れ』するだろうが。
そちらの方が大事になってしまうが、ハンドくんたちは『さくらを守るため』なら手加減はしない。
それを防ぐために神々は『曇り空』にしたのだろう。
さて・・・
「さくら」と呼びかけると、ふたたび『ぎゅう』っとしがみつく。
「ハンドくんが『アイスの乗ったジュース』を持ってきてくれたんじゃが。飲まないのかね?」
そう聞くと「のむー」と返事をするが腕を外そうとしない。
「大丈夫じゃよ。ワシらは何処にも行かぬから」
さくらの頭を撫でると少しして「ウン」と返事が聞こえて首から腕を離す。
膝だっこの状態でジュースに両手を伸ばしたさくらだったが、すぐに手を引っ込めてドリトスにしがみつく。
そして「ただいま」と呟く。
ドリトスはそんなさくらを抱きしめて「おかえり。さくら」と笑顔で返した。




