第177話
「さくら。どうしたんじゃ?」
さくらの前に現れて腰を下ろし、目の高さをあわせたドリトスに気付いたさくらがピタリと大人しくなる。
「・・・・・・ふぇ~ん。ドリぃ~」
ハリセンを手放し、ドリトスの首に腕を回して抱きつく。
ドリトスはさくらを軽々と左腕で抱き上げて立ち上がり、宥めるように背中を擦る。
放り出されたハリセンはハンドくんが回収して・・・そのまま補佐官の頭部と臀部を何度も叩いている。
彼は『自分の失言』と理解しているため、ハンドくんたちのハリセン攻撃を表情を変えず黙って受け続けていた。
「話なら聞いたぞ」
ドリトスの言葉にふたたび「やーだー」とドリトスの首にしがみついて泣き出す。
その姿にジタンが慌て出す。
「さくら様!ご出席されなくても良いのです!」
「さくら。補佐官は『さくらが断った』という事実が欲しかっただけじゃ」
ドリトスの言葉に「出なくて、いいの?」と尋ねる。
その言葉に「もちろんです!」とジタンが即答する。
「自分の『言葉足らず』でさくら様に不快な思いをさせてしまいました。申し訳御座いません」と補佐官が深く頭を下げる。
「さて。さくらは乙女たちと一緒に『お披露目』をされるかね?」
「ヤ!」
「では、『乙女たちのお披露目』に参列だけするかね?」
「それもイヤ!」
「という訳じゃ」
ドリトスが補佐官に目を向ける。
補佐官は「さくら様の御意思、確かに頂戴致しました」と再度頭を深く下げる。
「これからもそーゆーの全部出たくない・・・出なくちゃダメなの?」
「さくら様はこれからも『公式の場』に出なくて良いのですよ」
涙目で見てくるさくらにジタンは胸を締め付けられる。
さくらが公式の場に・・・『不特定多数の前』に出たくない理由をジタンは『甘く見ていた』からだと思っている。
それは『呪い』や『エルフ族の襲撃』に何も出来なかったからだ。
『呪い』にはヨルクに指摘されるまで気付かず。
『エルフ族の襲撃』では、さくらを守るためにハンドくんたちが反撃して神々が天罰を与えた。
ジタンは『襲撃』の前に『飛空船事件』もあったのに『国交断絶』して終わったと思い込み、警戒を怠っていたのだ。
「エルフ族は瘴気に弱いのかもしれない」とさくらが言っていたのに、だ。
「ドリトス様たちは如何なされますか?」
「ワシらは誰も出ぬぞ」
「ですが・・・『国賓』としてご招待しています」
ジタンはさくらの前なので敢えて『国賓として『家族や身内』を招待している』と言っていない。
しかし、さくらは『隠された言葉』に気がついた。
「会える時に会ってないと・・・会えなくなったら・・・絶対、に、『後悔』・・・する、よ・・・」
さくらの言葉が詰まる。
首に回された腕が震えている。
ドリトスは無言でさくらの背を擦り続けていた。
家族がいる自分が何を言っても、さくらの『慰め』にはならないからだ。
「少し時間をもらえるかね?そのことはセルヴァンたちとも話す必要があるじゃろう」
ドリトスはその場での返答を避けた。
さくらの『想い』と、みんなの『考え』をあわせて話し合い、今日中に返事をすることにしたのだ。




