第175話
「ドリトスに気付かれちゃったぁー」
『かくれんぼ』で見つかった子供のように、ニコニコしながら頭に両手を乗せてジタンに『報告』するさくら。
そんな様子をジタンは笑顔で見守る。
「ドリトス様は『真贋を見極める目』をお持ちですから」
「えー!じゃあドリトスの前では、どんなカッコしてもバレちゃうのー?」
「大丈夫ですよ。ドリトス様は何も仰らないでしょうから」
さっきもこの場で何も仰らなかったでしょう?
そう話すとさくらは「そうだね」と納得する。
セルヴァンは『さくらの心配』をしていたのだが、今頃はドリトスに『さくらの存在』を教えられて安心しているだろう。
それでもセルヴァンが戻って来ないのは、さくらの気持ちとヒナリを落ち着かせることを『最優先』させたからか。
部屋の外では時々、人々の慌ただしく行き交う音が聞こえていた。
それが少しずつ増えてきた気がする。
毛足の長い絨毯のため足音自体は聞こえない。
しかし人は動けば『音がする』ものだ。
その音にさくらは不安そうな表情をみせる。
「さくら様?どうかされましたか?」
「・・・私、 ジタンに迷惑かけてる?」
部屋の外、みんな忙しそう。
王城内でなにかあるの?
「国内外からお客様をお招きして、『聖なる乙女』の方々を交えた披露パーティーが4日後に開かれます。ご招待した遠方のお客様が、隣の迎賓館に到着されたのでしょう」
執務補佐官の言葉に驚いたさくらだったが、ジタンを見て「やっぱりお仕事のジャマしてるね」と落ち込む。
そんなさくらに補佐官は至って真面目な顔で「いえ。『働き過ぎ』のジタン様から仕事を取り上げる格好の口実になって頂いております」と答える。
『さくら。ジタンは近い将来『過労死』で死ぬつもりのようです』
『父親がクズだと子供に負担がかかって迷惑を被る』
『そんなアホ共に仕えるしかない連中がそれ以上に迷惑を被っている』
ハンドくんの言葉にジタンは目を丸くして側に控える補佐官を見遣る。
「『休んでいい』って主人が言ってもね。主人が休まないと部下は誰も休めないんだよ?上に立つ者は、下の者を本当に思いやるなら率先して休まなきゃ『メッ!』でしょ!」
さくらに注意されてジタンは最近の自身を思い返す。
確かに最近は間もなく開かれるパーティーや、来月に行われる自身の戴冠式や一連の儀式など予定があり、その準備や手配で色々と忙しかった。
そして改めて『前回いつ休んだのか』と聞かれると思い出せなかった。
「・・・『役立たず』なの?」
さくらの言葉の意味が分からず、ジタンは「え?」と返す。
「あのね。『お隣の人』とかジタンの周りにいる人たちって、一人でお仕事が出来ない『役立たず』なの?」
「いえ!そのようなことは決して」
「じゃあ。なぜジタンが一人でお仕事抱え込んでるの?なんで『お手伝い』してもらわないの?みんなには『任せられない』の?・・・・・・そんなに『信用出来ない』の?」
さくらの言葉にジタンは初めてハリセンを受けたとき同様・・・それ以上に衝撃を受けた。
ジタンは決して『信用していない』のではない。
『王太子』時代は仕事も少なく気になったことは自分で動いていたため、その体質が『国王代理』になって仕事が増えても抜けていないのだ。
「部下に、上手にお仕事を割り振りするのも『上に立つ者』の仕事だよ?」
『ジタンよりさくらが国王になった方が『この国のため』になりますね』
「えー。ヤダよ。面倒い」
国王という最高位を、『面倒い』の一言でスパッと拒否するさくらにジタンと補佐官は苦笑した。
「さくら様。今すぐには無理かもしれませんが、少しずつでも変えていく努力をしていきます」
ジタンの宣言にさくらは笑顔になった。
しかしその笑顔は長く続かなかった。
「さくら様。お話が御座います」
「その話は待って下さい!今はダメです!」
執務補佐官がさくらに『お願い』を口にしようとして、珍しくジタンが慌てて止める。
しかし補佐官は「実は・・・」と話を続けた。




