第173話
「なんかねぇ。『ヘンな人』がいっぱいいたんだよ」
「『ヘンな人』ですか?」
ジタンの言葉に「うん」と頷くさくら。
「『キミはいくらほしい?』って聞いてくる人がいたの。それも何人も!」
さくらは「この世界にも『買春』ってあるのかな?」と不思議そうな表情をみせる。
さくらの言葉にジタンも驚きの表情をみせたが、それは『さくらが感じた驚き』とは違っていた。
さくらのいう『ヘンな人』たちとは、子供たちを国内外の『裕福な屋敷』に『性目的の人身売買』をする犯罪者集団のことだ。
さくらは市井には『男の子』の姿で行ったのだ。
それでも声を掛けてきた男たちが沢山いたようだ。
王城を襲ったエルフたちのように、他種族・・・特に人族を苛虐や加虐、嗜虐の対象と見ている者は少なからずいる。
さくらの世界の『ペット』のように、この世界では他種族の子供が売買されているのだ。
中には金銭目的で同族に拐われて売られている。
男たちは目をつけた子供を逃さない。
そして子供の欲しいと言った金額が『子供の値段』として、親へ『子供の身につけていたもの』と共に送られてくる。
もちろん子供の欲しがる金額は『銅貨1~2枚』程度で、『売買』の取引金額は『金貨100枚』前後らしい。
そういう情報を耳にして調査を始めたのは、ジタンが『王太子』時代。
まだ『先代の聖なる乙女』がいた頃だった。
しかし、ジタンたちがどんなに調べても『存在自体』掴めておらず、まだ『ウワサの域』を脱していないのが現状だ。
さくらが帰ってきた時に話していた男も『その関係者』という可能性が出てきた。
「さくら様の仰られる通り、確かに『ヘンな人たち』ですね。分かりました。詳しく調査させて頂きます」
ジタンが徹底的に調べると約束したため、それまで不安げな表情だったさくらに笑顔が戻った。
実はハンドくんがホワイトボードに【 声を掛けてきた者たちの隠れ家は調査済み。あとで詳細を教える 】と書いてさくらの後ろから見せていたのだ。
ハンドくんたちは、さくらが楽しく過ごしている『ジャマ』をした連中を調べているうちに、『犯罪組織』に気付いたのだ。
『さくらが町で安心して楽しく過ごしてもらうために、犯罪者を『片付ける』のは至極当然』という考えのハンドくんたちは、ジタンにその『片付け』を押しつける気なのだ。
もちろんハンドくんたちが『片付け』ても良いのだが、それでは『ジタンのため』にならない。
父王が天罰を受けてしまったため、ジタンは来月に国王を継ぐことが決まっている。
その時点でジタンは『前王が天罰を受けて国王になった』という、マイナスイメージからの出発だ。
そんな立場で『自国の問題』を他者に任せていたら、『次期国王』としての面子は丸つぶれになる。
ジタンならその時はきっと『さくら様の手柄』と国内外に発表するだろう。
それよりはジタンに手柄を取らせて名誉を回復させることが、結果的に『今のさくらを守る』ことに結びつくのだ。
ハンドくんたちは『一応』ジタンの立場を考慮して『譲った』のだった。




