第172話
ヨルクが退室してから程なく、さくらが目を覚ました。
仕事を既に終えていたジタンは、ソファーに座ったさくらとテーブルを挟んだ向かい側に腰掛けて『さくらが実際に町をみて感じたこと』を聞いていた。
ジタンは町に出ても『正体』がバレているため『視察』と何ら変わらない。
それも護衛付きだ。
逆に、さくらはハンドくんという最強の護衛付きだが見た目を隠していたため、本来の『町の風景』を見ることが出来たようだ。
さくらはどんな些細な事でも、ハンドくんと確認しながらジタンに事細かに話す。
特に『通りで見かけた『補修や補強が必要と思われる箇所』』にジタンは驚いた。
「ここの階段のレンガ、割れてたり欠けたりしててキケンなの」
「ここはね。水はけが悪かったよ。近所の人の話だと何ヶ月も前に『魔法を使ったケンカ』があってね。その影響じゃないかって言ってた」
「ここの柵は根元が腐ってるからグラグラしてたよ」
「ここで野菜売ってるお婆ちゃんの、使ってるカゴが傷んでて穴があいちゃっていたの。底のほうが黒ずんでいたから底が抜けちゃうよ。今日も地面に直接置いていたから、たぶん雨などで濡れた地面がちゃんと乾いていないのに気付かないまま、カゴを置いちゃって底から傷んだと思う。『防水加工』の魔法ってないの?」
さくらは補佐官が町の地図を広げると、『視察』では隠されて見ることの出来ないことや、実際に見ないと分からないことを次々と指摘していった。
そして時々ハンドくんの補足も加わった。
ハンドくんからの指摘は主に建物の外壁や屋根の補修箇所だった。
「しかるべき所へ連絡をして、すぐに対処させて頂きます」
ジタンの言葉にさくらは嬉しそうに頷いた。
ちなみに『野菜売りのお婆さん』を含めた人たちには、『修復魔法士』が派遣されてカゴなどを無償で修理してもらえた。
実はこれも『さくらの発案』だった。
「たとえ壊れても愛着を持って使ってる人だっているよね。だったら『新しいものをプレゼント』するより『無償で修理』してもらえた方が喜ぶよ」
さくらの言うとおり、お婆さんのカゴは『亡きダンナがいつも背負っていた『思い出深いカゴ』』とのことだった。
思い出のカゴが修復されて、お婆さんは『ダンナが甦ったようだ』と泣いて喜んだらしい。
さくらの言うとおり、お婆さんのカゴには『防水・防腐加工』の魔法もかけられた。
魔法士たちは「さくら様のご指示でジタン様が自分たちを遣わされた」と話したため、見たことのない『さくら様』を慕う声があがった。
さくらの『絵姿』を求む声もあがった。
しかし、さくらはそれを望まないだろう。
国民には『飛空船事件』や『エルフ族襲撃事件』で生命を狙われた事実も知られており、国王代理からもその事実から絵姿の公表は正式に却下された。




